第7話 月夜の殲滅


 書類に書かれていた合流場所は宿泊先のホテルから見て少し離れたビルの地下だった。名義的にはマギルティアに関係のない他社所有となっているが、実際はマギルティアの複数持つ偽装会社の一つにすぎなかった。

 正直かなり昔に俺も調べたが偽装会社は他にも大量にあるらしくて調べきれなかった。


 そんなビルの地下には俺を含めて3人が集まっていた。

 1人は人間ではありえないほど発達した服の上からでもわかる筋肉を誇る数百年を生きる鬼『茨木童子』こと茨木のおっさんだ…逆だった気もする。


 もう1人は黒い人型?ともいうべき存在だった。

 本当に人のような形はしているのだが顔も含めて黒一色で、どう頑張っても人には見えない何かと言える存在だ。

 以前にも極秘の仕事なんかで顔を合わせているんけど、何度見ても慣れることのない不気味な見た目だ。


 そして俺の3人がこの場にちょっとした面倒ごとに対処するために集合していた。


「で、あの資料の話は本当なんですか?」


 入って早々に俺は本題に入った。

 なにせ今日は仕事だとは言っても普段なら利用しようとすら思わないような高級ホテルに泊まれる!という事でひそかに楽しみにしていたのだ。なので少しでも早く終わらせて高いベットで眠りたい。

 そんな本音はさすがに言えないけれど、今回は内容だけに茨木のおっさんも真剣な表情を浮かべていた。


「残念ながら本当だ。異種族排斥者が組織立ってテロ計画があるらしい」


「なんてタイミングの悪い」


「むしろ情報が漏れた可能性が高いだろうな。内容はどうせ『要人の訪問があって警備が手薄』とかだろうけどな」


「それでチャンスだと思ったという事ですか」


「だろうな」


 俺と茨木のおっさんはそろってため息を漏らした。

 なにせこの都市はいくら警備が普段織手薄になっても一国の軍が攻めてきても撃退できる規模を確保しているのは常識なのだ。

 しかも今回の要人は本人が超常の力を持っているのが判明しているので、いざという時に抑えられるように力のある人材も多数派遣されてきている。


 つまりは詳細に情報収集している組織などは簡単にテロ計画など立てたりしないのだ。


「という事は、防げるけど騒動を起こされる前に片付けたいってことでいいんですかね?」


「話が早くて助かるな。という事で、これがバカ共の集まっている場所の情報だ。構成員は大したことはないから適当に


「へぇ~い!それで…そっちの人は何の役割を?」


 話がひと段落したので一言も喋っていない黒い人型の存在へと話題を振った。

 いや、本当に何も言葉どころか息遣いすら聞こえない相手がじっ…としているのは不気味で怖いんだよ。

 そんな内心を理解してか茨木のおっさんも少し困ったような表情を浮かべて代わりに説明してくれた。


「こいつは和弥も知っていると思うが調査部署に所属している者で、今回はテロを企てたバカ共が逃げないように監視と資料の回収に当たってもらう」


「なるほど、つまり完全極秘の作戦というわけですか」


「そういう事だ。それと気持ちはわかるが顔には出すな」


「おっと、すみません」


 茨木のおっさんに言われて思いっきり顔に『めんどくせぇ』と出ていたことに気が付いた。でも、極秘でテロ集団を制圧なり殲滅をするのは気を遣うし本当に面倒なんだよ。

 それでもすでに話を聞いた以上は拒否もできないしちゃんとやりますけどね。


「内容は理解できました。あんまり時間かけたくないですし、さっさと片付けてきますね」


「あぁ、そうしてくれ俺も宴会の予定が入ってるんだ」


「大丈夫ですよ。さすがに化け物と呼べるような奴もいないような組織に手こずったりしませんから~」


「それもそうだったな!だったら行ってこい。後処理はすべてこちらが責任をもってやる」


「了解です!」


 一応それっぽく敬礼してみたが似合わな過ぎて俺と茨木のおっさんは噴き出して明るい感じで作戦へと移った。ちなみに話している間に黒い人型は消えていたので一足先に作戦に移っているという事だろう。


 なので待たせても悪いので俺も移動を開始した。


 向かった先は商業区画にある空き商店の一つだ。

 そこは元から雑貨店が入っていたので部屋も広く巨大な倉庫も着いていて、更に搬入口はトラックが直接つけることができる構造となっていた。

 まぁこの便利な構造を知られたから武器なんかの搬入に使えると思われたみたいだな。


 そんな焦点の周りの一般の商店や住居には他の人員が気が付かれないように防音と保護の結界を張っていた。

 つまりは目標の店を爆破や燃やしたとしても周囲の誰にも気が付かれることはない。


「はぁ…本当によくやるよ。ま、遠慮しないで暴れられるのは楽だしな」


 細かい手加減というのがどうしても性に合わない俺にはこうした対処は楽にできるので助かるのだ。

 というわけで本格的に仕事に取り掛かる。


「まずは人数の確認だな」『サーチ』


 この『サーチ』という魔法は科学のソナーと魔法技術の融合で生まれたもので、効果範囲内をすべて立体的に捉え、生き物を正確に知覚するというものだった。

 今回も店の構造は資料で読んだ通りだと確認できて内部の人数も把握できた。


「情報通り20人前後ってところか。さて、一気に終わらせよう」


 情報の正確さを確認すればあとは時間を掛ける理由もない。

 気が付かれないように魔術で飛んでいたが術式を解除して重落下する。


【風の剣】


 力を流し短く言葉すると魔法はあ問題なく発動する。

 手には渦巻く風で形成された剣が現れた。正直エネルギー効率を考えるとそんなにいい魔法ではないのだが、静かに始末することに関しては武器を用いたほうが楽なんだよ。


「ふぅ……っ!」


 息を吐いて全力で振りぬけば風の剣は形を崩して大きな不可視の斬撃となって目の前の商店を切り裂いた。


「⁉」


 その時に壁も少し吹き飛んで中の様子がハッキリと見えた。

 いまので3人ほど行動不能。残りも動けるが負傷しているのが5人、無傷が12人と言った感じだ。

 死者が出ていないだけましと思うべきか、思いのほか残ったことを嘆くべきかが問題だな。


「さて、混乱しているだろう君達に通告だ。この都市における大規模犯罪の発生件数はだ。理由はこうして発生前に潰されているんだよ」


「つ、つまり何が言いたい⁉」


「つまりお前達にはこの世から痕跡すら残さず消えてもらう」


 これ以上は話すだけ無駄なので何か言葉が返ってこようが知ったことではないしな。


身体強化フィジカル・ブースト


 普段から使っているが今回は戦闘で蹂躙するつもりなので体が壊れない最大強化した。ここまで強化すると全力で踏み込むと地面が割れて怒られるんだが、今回は許可が出ているし周囲は地面を含めて保護されているので遠慮なく使える。

 強化された体で全力で踏み込むと足元からボンッ!と爆発のような音がした。


 同時に完全に周りの人間の認識速度を超えたと確認したうえで、今まで隠していたナイフを服の袖から取り出す。


「まずは1人」


「え?」


 走り出した次の瞬間には俺は集団の真ん中で血濡れのナイフを片手に立っていた。

 やったことは単純で強化した状態で走って、一番近い場所にいた敵の頸動脈を切り裂いただけだ。

 間抜けな声を漏らした男はすぐに血の噴水と化して倒れた。


 それを見た騒動を企てたテロ未遂犯たちが顔を青褪めているのが目に入って、少しイラついた。


「なにを今更怖気づいているんだ。お前たちのやろうとしていたことの全容は把握しているけど、こんなのとは比べ物にならないほどの視認の出る流血騒ぎを起こそうとしていただろう?」


「だ、だからって俺たちはまだ何もしていないだろうが⁉」


「それが何の言い訳になる?問題は起きる前に潰す。至極当たり前の事だろう」


「そうだとしても殺すことはないだろ‼」


「はははははっ!だからお前らは時代に置いて行かれるんだよ…」


 あまりにも図々しい発言につい笑ってしまったが、やっぱり呆れてしまうな。

 表情にも出ているようで目の前のテロ未遂犯達は怒りの表情を浮かべていたが、受け止めてやるようなつもりはない。


「いまは長い変革の時代の中なんだよ。そして新たに加わった秩序は『同じ世界の人間同士では争わない』という簡単なこと、それすらお前らは守れていない。いや、この場合は守るつもりがないと言った方が正確か?」


「それは人間同士でのみだ!人外の化け物共は対象ではない‼」


「そんな理屈が通るわけないだろ。なにより今はた世界の脅威が強すぎるからな。身中の虫は災いを呼ぶ前に排除するのが、今の世界の常識…そんなことも知らずに行動に移した自分たちを恨むんだな」


「なっ⁉」


「もう話す時間は終わりだ」


 さすがに話していると気分が悪くなってきたの話を切った。

 ついでに目の前でまだ何か言おうとしていた男の首も切り落とした。

 それで他の犯罪者共も反撃に動こうとしていたが今の俺の速度については来れなかった。


 個人的には普通に走っているつもりだけど、周囲からは消えたように見えるって言うんだから【身体強化】は免許が必要になるわけだよ。

 素人がこんなもの全力で使ったら人身事故で死人大量生産だからな。


「さぁ…頑張って抗ってくれ、俺の鬱憤を晴らすためにもな‼」


 こっちはゆっくり休めるはずだったところを急遽呼ばれてやっているのだ。

 しかも一番嫌いな人種と話までしているのだから少しはストレス発散に付き合ってもらっても悪くはないだろう。

 なんて考えている間にも反撃のつもりなのか用意していた重火器を乱射し始めた。


 だが今更こんなおもちゃ同然と化してしまった物に当たるような間抜けは戦闘要員として呼ばれたりしない。

 飛んでくる弾を全部避けて鬱陶しいから発砲している奴から率先して始末する。

 それを繰り返していると最後の4人ほどは諦めたようにうつむいて動きすらしなかった。


「ふぅ…終わった」


 全員の始末を終えて発動中の【身体強化】なんかの魔法をすべて解除した。

 少しすると落ち着いてくるが周囲は大量うの血が撒き散らされていて、目が痛くなるほどに真っ赤に染まっていた。

 その中心で俺は返り血もろくに浴びずに無傷で立っていた。


「はぁ~慣れたとは言っても、さすがに気分良くとは言えないな…」


 こうした仕事は初めてというわけではない。

 今までにも違法に異種族を取引していた人間、反対に人間狩りをしていた異種族などなど無数の事件の犯人達を始末してきた。

 最初も吐いたりという事はなかったが気分は今の数倍は悪かったけど、いまとなっては少し不快に感じる程度となっていた。


「ははは…俺も化け物と言われるようになる日も近いかな?」


「もうすでに一部からは言われているだろ」


「それはそれでいいんですよ!っていうか、もう終わったんで帰っていいですか?」


 いつの間にか茨木のおっさんが背後に立っていたが気にしないで、帰っていいか確認した。この人は気分次第でこうして人の背後に突然現れるので気にするだけ無駄なんだよ。


「おう、後始末はこっちの仕事だからな!」


「なら帰らせてもらいますよ~さすがに眠い…」


「ハハハハハ!化け物並みの実力でも、体は人間ってことだな‼」


「わかってるんなら、こんな夜中に仕事降らないでくださいよ…」


「気が向いたら気を付けてやるよ」


「つまり気を付ける気はないわけですね。ならもういいです…」


 話すだけ無駄に疲れるのがわかったから、それだけ言って俺は今日の宿泊先のホテルの自室へと帰った。

 その帰り道に見た空には綺麗な満月が浮かんでいて少し…本当に少しだけど気分がよくなった気がした。

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