8話 使い魔との生活
仕事を終わらせて帰宅することにした俺は更衣室で元の制服に着替えると、わざわざ翡翠を待ったりもしないで1人で帰ることにした。なにせ翡翠は真面目なのもあって大量の仕事を同時に熟すので、帰宅するのが結構遅いので待っていたら時間がかかりすぎる。
そんな理由から1人で帰ったわけだが別に家が遠い訳ではない。ただ中央区から居住区へは徒歩だとそれなりの時間が必要だけど、ちゃんとモノレールも通っているので20分で帰れる。
ただモノレール代がもったいないので俺は身体強化の魔法を使用して走って帰るんだけどな。強化の倍率を上げれば正直こっちの方が早いので時間の節約にもなるのだ。
そして普段より少し強めに強化して走って帰ったので本来なら10分程で帰宅するのだが、今日はちょっと寄り道したので少し時間がかかってしまった。
一応説明すると俺の家はそこそこの裕福な家庭なので家は十分広い庭付き三階建てのだった。
「ただいま~」
「おかえりなさい。アホの主様?」
「おう、でもアホではないぞ?」
家に入った俺を出迎えたのは動きやすい赤いワンピースを着た金髪の少女がソファーに寝そべりながら適当に返してきた。
それに俺も軽いノリで返すと興味もないのか手の届く位置に置いてあるポテチを摘まんで読みかけの本へと目を向けていた。
「はぁ…と言うかカレンはここに居ていいのか?」
「なにが?」
「いや、おまえの家は確か貴族だか?始祖だか?に連なる家のだったはずだろ?」
「そんなことね…」
あまりにだらしない態度のカレンへと俺が一応心配半分程のつもりで聞くとカレンはどうでも良さそうに答え起き上がった。
起き上がったカレンは前に垂れて来た髪を手で払ってからめんどくさそうに話し出した。
「あなたも知ってるでしょ?使い魔は契約してからは主人に従属する。つまりはよほどのことがない限りは主人のそばで生活するの。知っている事をわざわざ説明させないでくれないかしら?」
「ハハハ…それでもたまには家に帰った方がいいのかなぁ~と思ってな。…はいはい、今回は俺が悪かったですよ。御詫びと言う訳ではないけど、帰りに寄って買ってきたケーキ食べるか?」
「…どこの?」
「フェアリーパレスのストロベリータルトが2つ、ザッハトルテが2つ」
「食べる!」
今日は少し交渉を強引に終わらせたし念のためにと思って買っておいたけど正解だったな。それにフェアリーパレスと言うのは店名の通り、お菓子に関係する妖精達が根幹になってお菓子のレシピを作っているので本当に絶品なのだ。その代わり値段も相応なんだがな。
とにかくカレンが納得したところで、手早く食器にケーキを取り出して机に並べた。もちろん俺の分もちゃんと用意している。
「う~んっ!美味しいぃ~~~‼」
「本当にデザート食べている時だけ別人みたいだな…あむ、うん確かに美味い」
契約した当初から何故かカレンは甘いものに目がなく、美味しい甘い物を食べると体をくねらせながら幸福そうに呆けた表情を浮かべていた。
今も死ぬほど幸せそうにイチゴタルトを味わっている。
こうなったカレンは何か話しかけても答えは返ってこないので俺もおとなしくケーキを楽しんだ。
そして食べ終わって余韻を楽しみながら紅茶を飲んで一息ついていた。
「ふぅ…あ、そういえば今日のニュースで中国と日本・イギリスの三国で異種族排斥運動が起きたみたいよ?」
「またか?まったくこれだけ異種族が浸透しても差別的意識ってやつはなくならないねぇ」
「人間なんてそんなものでしょ?魔女狩り・吸血鬼ハント・妖怪退治etc.、何も罪を犯していない異形の存在を恐れて殺す。異形という確証がなくても怪しければ殺すっていう、何百年もそんな歴史を刻んでいるんですもの」
「それを言われると何も言えなくなってしまうんだけどな…そして一応人間としてきまずい」
確かに人間は自分と違う物を排斥する行動を何百、下手すれば何千年と繰り返してきている歴史が存在する。特殊家系である俺もそう言った世界の裏側の歴史にも通じている俺としては何とも言い難い話なのだ。
「まぁそういう時に異形の存在を保護したのも人間だった。だから私達は人間をひとくくりで嫌わないし、人間の大半は私達をしっかりと受け入れてくれているしね。もっと言えばどんな種族にも一定数のお馬鹿は確実に出て来るから理解はできるけどね」
「確かにバカな奴はどんな種族や世界にもいるからな。今日行った世界とか?」
「ふふふっ!今日のところは極端な例だけどね」
今日の担当した世界をたとえに出して話すとカレンは楽しそうに笑って同意した。
それだけ今日の担当した世界は極端な反応を示した。
「特にあの狂信者は怖かったわねぇ~」
「それには同意だな。あそこまで神が!って叫ぶ奴は久々にみたよ」
「神って言う存在がそれだけ近い世界だったのかしらね?…別にどっちでもいいけど」
「今となってはどっちでもいいな。二度と関わる事はないわけだし」
今回設置した世界隔離用の結界は最低でも400年は解ける事の無い強固な結界だ。つまり何かの要因で結界の解除が早まったとしても100年近くは解けないので、こんなでも普通の人間の俺が生きているうちは間違いなく解けることはないのだ。
ここまで話しすと他に話す内容も思い浮かばなくなったので晩御飯の支度をする。
「今更ご飯?」
「忘れてたんだよ!先にデザート食べちゃったけど、栄養とか色々問題あるからな。食事だけは絶対に取るようにしているの、知ってるだろ?」
「知ってはいるけど、貴方なんで変な所は真剣にやるの?」
「……習慣だからかな。やらない理由もないし、むしろ習慣になっているからやらない方が落ち着かん」
「なるほどね~」
俺の答えを聞くとそこまで興味がなかったのかカレンは間延びした返事をして持っている端末へと目を戻した。
それを買う人して俺も今日の晩御飯の自宅へと取り掛かる。
栄養価やカロリーに気を付けながら体にいい影響のある最新の食材を使用して仕上げていった。
そんな感じで作った晩御飯を手早く食べて後片付けも終わらせると、何かを期待するような眼差しを向けるカレンに気が付いた。
「…なんだよ」
「ほら、私の晩御飯がまだでしょ?」
「おまえ…俺が晩御飯食べることには微妙な表情しておいて、自分のはいいのかよ」
人の食事に意見しておいてしかも最終的に興味を失くすと言う失礼極まりない態度だったくせに、自分の食事を催促してきたので少し嫌味っぽく返してしまった。
ただカレンは欠片も気にした様子も無く怪しく笑みを浮かべながら背後に回った抱き着いて来た。
「まぁまぁ、そんな事は別にいいじゃない。何より契約の中にも入ってる条件でしょ?『契約者は定期的に血を渡す』ってね」
「…わかったよ。なるべく早く済ませてくれよ」
「わかってるわよ。それじゃ、いただきます‼」ガブッ
「ぐっ」
嬉しそうに笑顔で抱き着いたまま俺の首筋にカレンは噛みついた。鋭い痛みが一瞬走って、すぐにチューチューと何かが吸われる感覚へと変わっていった。
すでに何度となく吸血行為をされてきたが、この独特な感覚には慣れない。
それから5分ほど血を吸い続けたからんはようやく口を話した。
「ぷはっ!あぁ~絶品‼」
「それは良かったな」
少し高揚した様子のカレンを横目に俺は首元に着いた血を拭って治癒術で傷を消した。牙の後くらいの傷なら専門じゃない俺でもあと一つ残さずに消せるので問題はない。
ただ結構な量の血を失ったので軽く眩暈がするのでソファーへと腰を下ろした。
「…ふぅ、すごい今更のこと聞いてもいいか?」
「うん?機嫌がいいから今なら何でも答えてあげるわよ!」
「いや、本当に単純な疑問なんだけど…何で直接牙立てて飲むんだ?別に言ってくれればコップとかに用意するんだが、何か理由でもあるのか?」
「え…」
前から疑問に思っていた事を聞くとカレンは驚いた様子で動きを止めていた。もっと言ってしまえば別に契約では『血を与える』とあるだけなので、契約者本人の血である必要もないはずなんだけどな。
「いや、だって…直接飲む方が美味しいし…それに」
「それに?」
「な、何でもいいでしょっ‼」バンッ!
「あ、おい!乱暴に閉めるな!」
急には恥ずかしそうに顔を赤くすると走ってリビングを飛び出して行ったカレンなんだが、それは別にいいにしても出て行く時に乱暴に叩きつけるように扉を閉めたことを俺は怒った。
ただ反射で怒りはしたが別にそこまでほんきで怒っていると言う訳でもなく、小さく息を吐いて今日学校で出された課題を広げた。
そして課題は1時間ほどで終わらせて時間を確認するとちょうど9時を少し過ぎたところだった。
「それじゃ俺は風呂入って寝るかな。そこで覗いてるカレンさんはどうするんだ?」
「っ⁉…気付いていたのね」
「あれで気付かれないと思っていたのか」
なにせ扉から顔を半分以上出して此方をガン見してくるのだ。あれでは余程鈍い奴でもなければ嫌でも気が付くと思うんだが、カレンは余程自身が有ったのか面白い程に落ち込んでいた。
「とりあえず、この後カレンはどうするんだ?俺は今言ったように風呂入って寝るつもりだけど」
「え、あぁ…私はもう少し起きているわね。種族的にも夜は寝れないのよ、知っているでしょう?」
「それもそうか、なら先に風呂入らせてもらうぞ」
「どうぞ~」
そう言うとすでに落ち着きを取り戻したのかカレンは何事もなかったようにソファーに寝転がってテレビを見ながら雑誌を広げていた。
あまりの切り替えの早さに呆れたがちょと羨ましくもあった。
そんな感じのやり取りをして俺は風呂に入って寝支度を済ませて、一応カレンへ一言言ってから自室へと向かうことにした。別にわざわざ挨拶しなくてもカレンなら気が付いているだろうからかまわないんだが、一応一緒の家で生活しているので挨拶くらいはちゃんとしたいと思うので毎日している。
「それじゃ今日もお疲れ、先に眠らせてもらうな。おやすみ」
「おやすみなさ~い」
手短に挨拶だけ交わしてカレンはすぐに手元の雑誌へと目を戻して、俺もすぐに自室のベットで眠りについた。こうしていつもの日常は流れていくのだ。
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