7話 異世界召喚協定《交渉決裂》


 一度帰還して魔法陣の調整を始めて30分程で全部の作業を終わらせて俺とカレンは少し休憩していた。


「何度やってもこの作業めんどくさいな。いまどき手動で調整ってどうなんだよ…」


『仕方ないでしょう。気持ちは分かるけど、毎回形式の違う魔法陣の調性の自動化なんて、少なくとも100年は無理なんじゃない?』


「やっぱ無理か~」


 一応、俺も分かっていたがあまりの大変さに口に出してしまうのだ。例えれば精密機械の電子回路を元の機能をそのままで新たな機能をバランスを保ちながら追加するようなものだ。

 しかも形は似ていても一つ一つがオーダーメイドで中身はバラバラ、それなりの知識がないと手を加えられないもはや嫌がらせのような内容なのだ。


「とりあえず、調整は終わっても意味を持つのは一時間たってからだ。その間に他の書類の整理でもしておこう」


『開き時間を無駄にしても、仕事がよ・け・い・に!増えるだけですからね』


「…さぁ~!頑張って終わらせるぞぉ~」


 なにか余計な一言が聞こえた気がするが無視して、俺は部屋の中に用意されているデスクについて積み上げられている書類を見ながら時間を潰した。


 それから何の面白みのない書類を読んだり、破棄したり、サインしたりとひたすらつまらない作業を続けていると気が付けば一時間が経っていた。


 ピィ~!ピィ~!


「このタイマーなんでこんな微妙な音なんだろ」


 気が付かない事も考えて念のためにかけて置いたタイマーが鳴ったのだが、その音と形が何とも微妙なのだ。やせ細った鳥が鳴いている銅像型の時計だぞ?これ備品だから捨てられないから使っているが、出来ることなら早く別のものに変えたい。


『そんな変な物はいいから。さっさと仕事終わらせて帰りましょう。まだ読みかけの漫画があるのよ』


「はいはい、俺も早く帰りたいしな。…それで今回は?」


『話した感じだと、あの王様はまともそうだったわね。問題は他のってところかしら』


「ふふふ!なら早く終わらせるためにも、賢明な判断をしてくれるように祈ろうか」


 正直期待は薄いとは思うがそう言って俺とカレンまた魔法陣を起動して向こうの世界へと向かう。約束通り


―――――――――――――――――――――――――――――


 魔法陣の光が無くなると以前同様にレッドカーペットのある豪華な場所に出た。

 ただ前回とは違って周囲には円卓が用意されていて、その中心の開いたスペースに俺は出たわけだな。ただ言わせてもらえるなら言いたい…


(これ、もし現れる位置がずれてたらどうするつもりだったんだろうな?)


(きっとここに現れる確信があったんでしょう。それもなく、この準備していたらちょっと頭が心配になってしまうわね…)


(本当に確信があっての事だと望むよ)


「よくぞ来てくれた」


 俺とカレンが話し合っていると目の前の円卓に座っている最初に会った王様が歓迎の言葉を口にした。とは言っても表面上は歓迎しているようだが、他の円卓に座っているおそらく他の国の重鎮達の目を見ると信用する気にはなれないな。なにせ全員ではないにしても半分以上が敵意に近い感情が浮かんでいるのが分かった。

 その事に俺とカレンは無言で警戒心を最大まで上げてから話し出す、もちろん俺ではなくてカレンが体を操作してだ。


「いえ、こちらは約束を果たしただけですのでお気になさらず。それで失礼ですが協定には参加して頂けるのでしょうか?」


 こちらはただ協定に参加してもらえればいいので、少し失礼ではあるけれどもさっさと話を進めさせてもらう。正直俺は今すぐにでも帰りたいからな…この後の展開は何となくわかっているしな。


「そう言う事だったらわかった。こちらとしても時間に余裕がある訳でもないのでな。迅速な方が助かる、そして答えだが…拒否する」


ダダダダダダダッ!


 王様が毅然とした態度で協定への参加を拒否すると見えない所から大量の騎士や兵たちが一斉に現れ、俺に向けて槍や剣を向けて来る。一応どんなつもりか武器を向けて来る者達のが…これはダメそうだな。


(これ以上は私ではダメそうですので、主導権を返すわよ?)


(あぁそうしてくれ、いつもの事だけど後は完全に俺の領分だしな)


 了承を得るとすぐにカレンは体の操作を止め、同時に俺には自分の体の感覚がはっきりと戻って来たのを感じ取った。


「さて、この状況については詳しい説明をしてもらえますか?」


「簡単な事だよ異世界の使者殿。確かに貴殿の申し出を受け入れれば今回の危機を乗り切る事はできるかもしれん…その後はどうする?協定に参加して仕舞えばこちらの自由は縛られる。更に少なからずそちらの世界の影響を受けてしまうだろう、我々はそれを許容できんのだよ。どうか理解して、このままおかえりいただきたい」


 最初におあった時と変わらず王としての責任感を背寄った物どくどくの空気を纏いながら目の前の王様はそう言った。確かにこの協定は『危険を排除して、はい!終わり‼』なんて言う軽い物ではないからな。

 この異世界協定は個人や国で結ぶ協定ではなく使なのだ。名前を使用した契約は破った方に一方的に大きなペナルティーが発生するんだが、数年前に勝手に世界観移動を行って採算の注意にも従わない世界があったが


 だからと言って俺も『帰ってください』『はい、分かりました!』と言って帰る訳にも行かないんだよな。


「そちらの意見は理解もしましょう。ですがその場合、こちらの対処は【世界の封印】と言う処置になります。そうなった時この世界は他の世界から完全に隔離され、二度といかなる干渉も出来なくなります」


「なんだとっ⁉」


「そんなわけはなかろう!勇者召喚とは神が作りだした神秘なのだぞ⁉」


 俺の宣言を聞いた瞬間、いままで口を開こうとはしなかった他の国の代表らしき人達も声を荒げて叫ぶ。まぁ自分の世界が封印されると言う事態になれば冷静でいられる方が少し以上か、とは言え一人だけ異様に冷静な者が居るのに俺は気が付いた。


「そちらの人は何か意見でもないのですか?」


「私ですか?」


 問いかけに対して答えたのは混乱した中1人冷静だった純白の礼装?なんか協会のシスターとかの来ていそうな服を身に纏った女性だった。薄いベールのようなもので顔を隠しているから表情はわからないが、他の代表者達とは違って一段とお^等のような物を放っていて返って来た言葉にもどこか圧のようなものを感じ…るような気がする。


「はい、他の人に比べて随分と落ち着いているようですからね」


「それは当たり前の事です。この召喚陣は神が選ばれた勇者を呼び出すもの。それを私的に利用する貴方のような不届き者を神がお許しになるはずもなく。ならば!そんな貴方達が何かしたところで意味のない事でしょう‼」


 俺が質問すると徐々に興奮したように話すと言うよりも、叫ぶようになった純白の礼装の女性は点に祈るように言い切った。その姿に俺は嫌でもそれを理解した。


(つまりは狂信者ってやつだな。たまにいるけど苦手なんだよな…話が通じないから…)


 そんな風に俺が考えている間にも目の前の女性は興奮した様子で話し続けているけど、いちいち聞いていたらきりがないからスルーだな。


「ふぅ…それでは協定に参加しないと言う事なので、これから封印措置に移らせていただきます」


「「「「なっ⁉」」」」


 もういろいろと面倒になったので俺が手短に宣告すると混乱していた国の代表者たちはようやく俺へと目を向けた。でももう手遅れだね。

 ここでの会話は後で提出する必要があるから録音してあるし、経験上こういう手合いは話し合っても後々なにかやらかすことが多いから話は聞かない事にしている。


「ま、待ってくれ!」


「もう手遅れですよ。違法召喚、ならびに協定への参加拒否を確認。『魔術・怪異対策組織【マギルティア】上空移動都市:【高天原】中央局/特別処理課所属・黒城 和弥』その権限によって世界封印を実行する」


 決まりである口上を述べた瞬間、実は隠れて準備しておいた小型魔法陣を足元の召喚陣に設置した。その小さな魔法陣は元からそこに収まる事が決まっていたように静かに入り込み次の瞬間、足元の召喚陣が薄っすらと光を放ち始めた。


「こ、これはいったい…」


「神が我々に与えた召喚陣に何をしたのです⁉」


「態々教える理由は無いんだけどね。何もわからないのはかうぃそうですし教えてあげましょう!今の魔法陣は召喚陣に組み込まれた『世界間の移動・引き寄せ』と言った効果を書き換え『世界間の封鎖』と言う内容に変えるためのもので、この魔法陣を組み込んだ状態で召喚陣を起動すれば世界封印が起動する。そしてこの封印は発動すれば世界そのものを覆うように展開されて解除は俺でもできない」


 そう言い切ったと同時に足元の魔法陣の同調が完了した。別に説明する必要も意味もなかったんだが、この魔法陣は発動するのに時間がいるからちょうどいい時間稼ぎになった。

 そして同調が完了した証拠として光が短く点滅を繰り返す。


「さて、誠に残念だけど貴方方とはうまく付き合えないようなのでこれで最後ですね。それではさようなら…」


「まっ」


 丁寧に別れの挨拶をして帰還用の魔法陣を使用すると誰かの止めるような声が聞こえたが、反応する前に俺は光に包まれて次の瞬間には味気ない部屋へと戻っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――


「あぁ~疲れた…」


『お疲れ様ね。最後は少し雑だったけど…』


 帰って来た俺はデスクの椅子に座ってだらけていた。そこに元の蝙蝠の姿になったカレンが肩に泊まって呆れたようにそう言った。


「しょうがないだろ?俺にあの状況から上手く交渉するような能力はない‼茨木のオッサンも分かって俺に仕事を任せてるだろうし……多分大丈夫だろ…きっと…」


 話しているうちに俺もだんだん自信をなくしてきた。でも、あそこまで敵対的な態度に狂信者もいる状況を覆せる交渉材料を俺は持っていない。

 だから判断自体は間違っていないと思うけど、それを他の人にも理解してもらえるかは半々ってところなんだよな。


「……まぁ考えても仕方ない。終わった事はどうしようもないし、怒られる時はカレンも一緒に怒られるし少しはましなはず‼」


『なっ!私まで巻き込もうとするんじゃないわよ!』


「別に巻き込んでないだろ?最初の交渉はカレンがやって、俺が最後の判断を下しただけなんだから。つまり結果的にでも俺の判断を見逃した時点でお前も同罪と言う事だ‼と言う事で一緒に怒られに行こうか?大丈夫、1人じゃないから…」


『そんないいことのように言って行かないわよ⁉』


 その後も必死に抵抗するカレンだったけど今は可愛い小さな蝙蝠でしかないので、すぐに捕ま得ることが出来た。


『気軽に女性を掴むんじゃないわよ!は~な~し~て~‼』


「はいはい、後でちゃんと契約分の血は渡すから今回は諦めてくれ」


 捕まっても往生際悪く暴れるカレンを押さえながら俺は部屋を出て上司である茨木童子へと報告に向かうのだった。

 まぁ結果としては予想通り怒られたが、だいたいが交渉に乗っかって来る世界の方が少数派なのでひどくは怒られはしなかった。もっとも『次からはもう少し我慢しろ!』と言われてげんこつ一発貰ったんだけどな。


 そんなこんなで報告と説教が終わると俺とカレンはもう一度部屋へと戻って、残っている書類や他の雑務を終わらせてギリギリ19時前に帰路に就く事ができた。


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