6話 異世界召喚協定《通達》
「ふぅ…これ身に着けるとピシッ!とした、気分にはなるな」
俺は更衣室で特別処理課の証拠であるエンブレムの入ったコートを身に着けて、設置してある姿見で身だしなみを一応確認していた。
今の俺の服装はエンブレムの入った黒いロングコートを羽織って、内側には黒のワイシャツに金糸で襟などに軽く装飾が入っている。ズボンは見た目はスーツのように見えるが実際は特殊繊維の特注品だ。
他にもベルトやら手袋なども黒色でそろえているので全身真っ黒。おかげで知らない人が見れば不審者に思われるかもしれないが、一応全部が高級品であるのでそれなりにちゃんとした格好となっている。
「とりあえず寝ぐせとかもないし、埃が付いている訳でもないし問題ないだろ。……行くか」
最後に服装とかに乱れがないかも確認した俺は、なんとか口に出すことで自分を納得させて仕事へ向かう。
更衣室から出て向かうのは魔法陣を設置したと言われた27号と言われる部屋だ。そこへ続く通路には他にも番号の振られた扉が大量に並んでいて、中から時折なにかの悲鳴のような音が聞こえて来る。
だがそんな物は無視だ!気にしていたらここでは働けないし、別に誰かが死んだり怪我したりするわけではないので大丈夫だ。ここでは小さい事を気にしたら負けなんだよ。
そうして歩いて目的の27号の部屋の前に着いた俺は軽く息を整えて…
「…あ、そう言えば忘れてた」
途中で大事な事を思い出して胸元から黒い棺のようなデザインのペンダントを引っ張りだす。
「お~い!起きてるかぁ~」
『おっそーいっ‼』
「あぶっ⁉」
ペンダントに向かって俺が呼びかけると黒い影が飛び出して顔面目掛けて飛んできた。何とかギリギリで避けたが、あの勢いだと怪我するとこだったぞ?と思って飛び出してきた影を睨みつける。
「急に飛び出すなっていつも言ってるだろ?」
『放課後になっても呼ばない奴が悪いんですよ!』
そう言って不貞腐れたように顔を背けるデフォルメされた蝙蝠のような生き物。本来の名前は長くてめんどくさいので、俺は縮めて『カレン』と呼んでいる。
ふてぶてしい態度だが一応こんなでも俺の契約している使い魔の一体だ。
「はいはい、次から気を付けるって…」
『その言葉はもう何度も聞いた。…はぁ、それで今日はちゃんと仕事するみたいだね』
「おう、と言う事で説明が必要そうだから頼んだ!」
『いいかげんに自分でやるつもりはないの?』
「俺が自分で話して上手くいくとでも?」
丸投げした俺に対して呆れたように言われたので、笑いながらそう帰してやると黙って考え…ようとしてすぐに顔を上げて答えた。
『…確かに、任せた方が仕事が増えそうね』
「すぐに同意されると複雑だけど、まぁそう言う事なんで頼んだぞ相棒‼」
『はいはい、お任せあれ相棒さん』
投げやり気味だがちゃんと返してくれた相棒に満足して俺は部屋の中に入る。
するとそこには昼間に学校で見た魔法陣が機能を停止された状態で設置されていた。後はこの魔法陣を起動すれば召喚されて、向こうに行って交渉の始まりって訳だな。
「一応、確認して措くけど問題ないよな?」
『何度も言ってるんですから、今更問題あるわけ無いでしょう』
「それもそうだな。じゃ、行くか!」
もう特にする事も無いのでそうして俺は魔法陣の機能停止を解除して飛び込んだ。
すると機能を再開した魔法陣が光を放ち俺を包み込んで向こうの世界へと召喚するのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ…無事に着いたかな?」
召喚の光が消えたので周囲を確認すると豪華なレッドカーペットに装飾過多に感じる柱やシャンデリアが目立つ場所だった。他にも端には急に現れた俺にざわついてい人影が見える。
(とりあえず、今回は比較的に普通な部類の召喚先みたいだな)
(確かに、前に行った場所は散々だったのを覚えているわ…)
(ははは!確かにあれは大変だった‼)
「何者だ⁉」
「?」
俺がこっそりと使い魔と話していると痺れを切らしたように、周囲を甲冑姿の数人に囲まれて剣を向けられていた。全員の表情がかなり険しく今にも串刺しにしてきそうだが、おれは特に気にすることなく話し出す。
「何者だと言われてもね。そちらの召喚陣を利用してこさせてもらった交渉員です」
「こ、交渉員?」
「…わかりやすく言えば使者のような者ですよ」
見た感じ文明レベルは中世程度のようなので交渉員では通じないみたいで、使者だというと今度はちゃんと意味が通じたのか混乱しているけど納得した様子を見せている。と言っても向けられている剣は一向に下ろされる様子はないんだけどな。
「その使者が何用でここまで来た」
「陛下⁉」
俺が向こうの反応を待っていると一番偉そうな髭を生やしたオッサンが話しかけてきて、それに周囲の騎士と貴族っぽい奴らが騒いでいる。
騒がしい周囲も気にはなるが、それよりもさすがに一番偉い人に声をかけられたなら答えないのはさすがに拙いか。
「簡単な事ですよ。あなた方の使用した召喚術は対象の意思を無視して強制的に召喚してしまう。つまりは誘拐や拉致してしまうのです。それをされると私達は困るので使用をやめるか、こちらの用意した召喚協定に参加するかを選んでいただきたい」
(う~ん、意識していないのに口が動いて俺の声が聞こえる。相変わらず変な感じだ…)
(集中できないから思考もやめて)
(えぇ~それだと俺暇なんだけど…)
(いいから黙っていなさい。それとも自分で話しますか?)
(すみませんでした。黙ってます)
外からは見えないが俺の体は使い魔であるカレンがネクタイピンに変化していて、そこから俺の体に接続して操作してもらっているのだ。
ただ何度やっても操作される感覚には慣れないし、その間やることがないので死ぬほど暇なのだ。それはもう余計な事を考えて怒られるほどにな。
なんて俺が下らない事を考えている間に王様は考えが纏まったのか真剣な表情を浮かべて、こちらを真っ直ぐに見つめていた。
「…使者殿の用件はわかった。こちらとしても緊急時とは言え、関係のない者を巻き込むのは気が進まなかった。しかし理解して欲しい、こちらにも余裕がなかったのだ」
「その理由を教えていただいても?」
「もちろんかまわない」
こちらの要求に王様はすぐに頷いてくれたが周りの貴族らしき人達のうち何人かはガヤガヤとしているし、近くの騎士達も何名かは俺の態度に怒ったのか飛び出しそうだったが他よりも豪勢な鎧の騎士達に抑えられていた。
たぶん豪華な鎧が近衛騎士とかそう言うのだろうとは予想できる。足運びの時点で周囲の騎士達よりも数段上だ。
そうして俺が脇に視線を移している間にも王様とカレンの質疑応答?は続いていた。まぁ話を簡単に纏めると『魔王が襲ってきた→近い国が抵抗して負けた→他の国もやられた→各国協力して対応決定→連合軍苦戦でこのままだとジリ貧→勇者を呼んでみよう!』みたいなひと昔のファンタジーで良くある感じで正直詰まらなかった。
ちなみに言っておくと異世界召喚が実在の物だと分かると、さすがに行方不明の一重の配慮などで似た系統のファンタジー作品は極端に数を減らしてしまった。もっとも今では気にする品減も減って来て、戻って来ているんだけどな。
「つまりはこの世界の人間の危機のために戦力を必要として、た世界の人間は強いから頼ろうとしたと言う事ですね」
「う、うむ、改めて言われると何とも情けないが…その通りだ」
「別に情けないとは思いませんよ。危機がせまってなんとかできる可能性があったので、それに縋るのは何も不思議な事で話です。何よりそう言う世界は複数存在しますので」
後悔しているのか王様が力なく頷くと俺の体でカレンは励ますようにそう言った。実際に俺が知るだけでも似たような危機的状況の解消が理由の強制召喚は、過去までさかのぼれば数100件は聞いたことがあるほどに多いので特に珍しくも無い。
「そう言っていもらえると、こちらとしてもありがたい」
「ですが理解はしますが、無条件で許すことが出来ないのもご理解いただけるとは思います」
「っ…それはそうであるだろうな」
「なのでこちらの協定の内容を確認して、一度ご検討いただきたい」
そう言ってカレンは俺の持ってきた協定の契約紙を取り出した。周囲を囲む騎士達の向けて来る剣の刃先が警戒したのか近づいて来たが、当てる気が無いのは見ていれば分かるので別に怖くもない。
ただその余裕の態度が余計に神経を逆なでているようにも見えるけど…気にしても仕方ない事だな。
その間にも近くの騎士が契約紙を受け取って危険性が無いのを複数回確認すると王様に宰相っぽい位置に居る豪華な服のオッサンが手渡した。
ちなみに契約証の内容は…
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【世界間召喚協定】
1:協定を結んだ瞬間より相手の意思を無視した強制的な『召喚・転移・転生など』いかなる手段を用いることを禁止とする。これに違反した場合は、以後の世界間の移動や交易のすべてを断絶する。
2;協定以前に『召喚・転移・転生など』をされたものに関しての情報は、知る限りの一切の提出を行う事。
3:協定関係にある世界間の移動には専用ポータルを使用して行い。それ以外の方法による世界間の移動は全て違反とみなし、発見・確保された世界の法律に基づいて裁くものとする。
4:世界間の交易に関しては両世界で話し合いの下で行い。問題が発生した場合は協定関係の世界を間に挟み、話し合いで解決するものとする。
5:協定に違反した世界は対抗措置として、審議の間の他世界から遮断。違反が確定した時は協定は破棄したものとみなし、他世界への一切の接触をできないよう封印処置を行う
以上の事に同意するものは世界名を記名する事で協定に同意し参加する。
『 』
――――――――――――――――――――――――――――――――――
こんな感じで正直な話し世界の一国家の王様が一人で決められるようなじゃない。なので俺やカレンもすぐに答えが返って来るとは思っていないけど、目の前の王様の様子を見るに自分一人で決めないとダメと思ってそうなんだよな。
(と言う事で、カレンその辺の説明もしてくれ)
(はぁ…わかっているから。本当に余計な思考は止めて、大人しく待っていてよね)
(へぇ~い…)
ただ気を使って言ったのに怒られたのでこの後は大人しくしている事にした。
それを確認するといまだに深刻な表情で黙っている王様に向かってカレンは俺の体を操作して、ゆっくりと話し始める。
「内容を考えても一国では答えは出せないでしょう、なので今より一月後に改めて答えを聞きにまいります。それまでに答えを出していただければ構いません」
「…心遣いありがたい。内容だけにわが国だけでは決められず、手間をかけるがよろしく頼む」
「こちらとしても前向きに考えて欲しいので問題ありません。ただ話し合いの間は、世界間の召喚などの魔法は一切発動しないようにさせていただきますので、その事はあらかじめご了承ください」
「っ!…それくらいは仕方ないだろう。承った」
「ご理解いただけて何よりです。それでは一月後に、また尋ねさせていただきます…」
完全に話が纏まるとカレンはそう言って軽く会釈して、その時に見えないように魔法陣と身に着けている装置を起動した。
するとこちらに来た時と同じように魔法陣が光を放ち始めて、それに慌てた様子の騎士達や王様たちが何か騒いでいたように見えたが、次の瞬間には俺は魔法陣が設置されただけの27号の味気ない部屋に立っていた。
「ふぅ~疲れたな…」
「あんたは何もしてないでしょう」
「してたよ?体だけでも、ちゃんと話してた」
「はぁ…」
ちょっとふざけて答えたらカレンが全力で呆れた様子で溜息を吐いた。そこまで酷い事お言った覚えはないんだけど、これ以上何か言うと余計に呆れられるか怒られるかのどちらかなので黙っておく。
「それよりも早く終わらせたいから、魔法陣の調整するぞ~…めんどくさいけどな」
『仕事なんだから文句を言わないで欲しいわ。わたしなんて使い魔だから、給料も無いのに手伝ってるんですからね?』
「それもそうでした…」
そうやってふざけながらも俺とカレンは協力して召喚陣の調整を進めていく、今日中に仕事を終わらせるために急ぎながら事故にならないよう丁寧に組み替える。
次の本当の交渉になるだろう時のため準備も並行して続けながら…
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