4話 腐れ縁な2人
あの後、召喚陣を調べていたら約定を結んでいない世界から物だと判明した。しかも召喚する時に従属系の付加されるようになっている『隷属召喚』などと巷で言われる物だった。
そのためマギルティアへ対・召喚陣とは別の魔導装置を使い転送。後は必要なくなった対・召喚陣を停止して完全に魔法陣が無くなったのを確認してようやく終わった。
その後は何事ともなく時間が過ぎて今日の授業は終わり。誰もいなくなった教室で俺は1人…疲れ果てていた。
「あぁ………今日は一段と疲れた。召喚陣の対処って、よく考えなくても生徒のやる事じゃないよな…」
なにより俺は何もしてないのに召喚陣の出た時の『おまえのせいだ‼』みたいな視線には納得ができない。確かにフラグ的な発言はしたけど因果関係何一つないじゃん⁉何で俺が悪いことになるんだろうか。
「こんなとこで、なにをだらけているの?今日はバイト休みじゃないでしょう」
「あん?…別にいいだろ翡翠」
人がせっかく休んでいるところを邪魔する声に振り返ると、そこにはあからさまに不機嫌そうなエルフの翡翠が立っていた。正直こいつはクソ真面目過ぎて俺は苦手なんだが、昔からの腐れ縁なのだが勝てる気がしないんだよな…
「良くないでしょう。前にサボって罰を受けたの忘れたわけ?」
「うっ…だ、大丈夫!ちゃんと後で行くし、少し遅れても大丈夫なはずだ‼」
「はぁ~……」
自分でも苦し紛れとわかる言い訳を言うと翡翠は盛大に溜息を吐いた。いや、確かに今のは俺自身も言ってからどうかと思ったけど、本人の目の前で分かりやすく溜息吐くのはいいんだろうか。
そんな事を俺が考えていると翡翠は最後の切り札を切って来た。
「なら和弥のお母さまに私から連絡してもいいと言う事ね?『和弥君がバイトに行こうとせずに、サボろうとしています』ってね」
「ちょっと待とうか‼さすがにそれは止めろ。いや、マジで止めてください‼」
まさか親を引き合いに出すとは思っていなかったので本気で焦った俺は、つい反射で頭を下げていた。なにせうちの親は普段は優しいが約束などを破る事に関して異様に厳しくて、以前に一度軽い約束を破った時は本当に鬼のような形相で怒られたのだが…あの時は死ぬかと思った。
その事を翡翠は知っているので脅して行ってきたわけだが、マジで冗談でもたちが悪いわ‼
「なにか文句でもあるの?」
「いえ!まったく、欠片もありませんです‼」
昔からこんな調子で俺は翡翠に対して頭が上がらない。でも必ず、絶対にいつか勝って見せる!と目標にして頑張ろうと思っているのです。
とりあえず今は勝てないので言う通りにしとこう。まじで親に伝わるのはシャレにならないかな。
「あぁ~めんどくさい…」
「文句を言うんじゃないわよ。それにバイトと言っても、あんたの場合は年齢の問題からくる対外的な物でしょう?ほとんど正規雇用で、給料も一般的な正社員よりも貰ってるんだから」
「はいはい、分かってるっての。そんな事情は知っている上であの現場、疲れるんだよ…色んな意味で」
「そんなのは休む理由にならないわよ。良いから早く行く!私も今日はあんたを無理やりにでも連れてくるよう、ついさっき連絡受けたところなのよ」
「うげぇ~」
翡翠の言葉に俺は思わずそんな声を漏らしてしまう。なにせ無理やりでもと言う事は今日の件がバレているのは間違いない。
つまり何か面倒事が起きて、それの処理を頼まれるのか、それとも勝手に行動したことを説教されるのかなわけだ。
「マジで行きたくない…」
「いいかげんしつこいわね。本当に強制的に連れてってやろうかしら」
俺が行く気を失くしてきていると焦れた翡翠が怒気を含んだ声でそう言うと、手元に数字と文字の羅列の魔法陣を展開し始める。
「って、おまっ‼何やってんだよ⁉それはここで使うような代物じゃ無いだろ‼」
「なら早く支度しなさいよ。10、9、8、7」
「待て待てっ⁉すぐに準備するからカウントダウン止めろ!」
注意も無視して発動までのカウントダウンを始めるとかこいつ馬鹿だろ!と思いながらも、発動されるのはシャレにならないので急いで帰り支度を済ませる。
そうやって俺が慌てている横でも翡翠はカウントダウンこそ止めたが、魔法陣をいつでも発動できるように待機させて真顔で観察していた。頼むから物騒な魔法陣は早く消して欲しい。
「ほら!支度も済ませたしいいかげん解除しろよ‼」
全力で急いだからか何とか一分未満で帰り支度が終わったから、いまだに物騒な物を展開している翡翠に強めに言った。これで納得して解除してくれる…よな?
「そんな大声で言わなくても分かっているわよ」
俺の注意にうざそうに顔をしかめながら展開していた魔法陣を振り払うように消した。まったく教室で魔法陣を展開するとか、やっぱりこいつはアホだな。
「…和弥、前から言おうと思ってたけどさ。あんた感情が顔に出やすいんだから下手な事を考えない方がいいわよ?」
「っ⁉」
「今も何か失礼な事を考えていたでしょ?」
「は、ははは!いや~そんなこと考えてないですよ?」
「もう一つ教えといて上げる。あんたはテンパると口調が敬語や丁寧語になる癖があるのよ」
「な、んだと…」
そんな癖があったなんて知らなかったんですけども⁉と言うかなんで本人が知らない癖を知ってるんだよ。これだからこいつは苦手なんだよな。
「ほら今も何か考えたわね。指摘されて、すぐにこれなんだから直りようがないわよね」
「やかましいわっ‼ほら、もう行かないと時間が本当に間に合わなくなるぞ。と言う事で、早く行くとしようか‼」
これ以上話していても勝ち目はなさそうなので、俺は早口で急かすと率先して教室を出ていく。後ろは確認しない!どうせ見ても翡翠の勝ち誇った顔をか、あきれ果てた顔を見ることになるだろうからな。
「はぁ…そんなに急ぐくらいなら。最初からちゃんと時間通りに動きなさいよ」
「本当にうるさいな。お前は俺の母親か!」
「そのお母さまから面倒を見るように言付かってるのよ。ちなみに授業態度が目に余るようなら、すべてまとめて帰って来た時に教えて!ともお願いされているわよ?」
「はぁ~⁉そんな話俺は聞いていないんだけど!」
「あたりまえでしょ?なんで監視される側のあんたに、わざわざその事を教えるのよ」
「いや、それはそうだろうけど…」
そう言われると何も言えない。確かに関しする側が、される側に教える必要も意味もないからな。でもなんか釈然としない!だからと言ってそのまま行っても口で勝てる気しないからな…諦めよう。
「わかった。もう聞かないが、それで脅しに来るんじゃねぇよ。真面目に心臓に悪いから」
「なら普段からちゃんとすれば問題ないでしょ。和弥が不真面目でなければ、誰も文句言わないんだから」
「それは無理!そんな事ができていれば苦労しない」
常時真面目で生きてたら俺は死ぬ。っていうレベルで疲れるから絶対に無理!でも口には一度も出さないけどな。
すでに今の話の段階で後ろからもの凄く冷めた視線を感じるし。
「…はぁ、それよりも本格的に急がないと間に合いそうにありませんよ」
「え?」
いきなりの翡翠の指摘に俺は小さくそれだけ言うと後ろへ振り返った。
しかし翡翠は振り返った俺など気にしたりしないで、歩き続けながら説明を続ける。
「現在15時47分、この学園区から中央区までは1時間近くかかるのよ?」
「あぁ~そう言えば、そうだったな」
「そして私達のバイトの入り時間は16時30分。最低でも、その時間までにはいかないといけないのよ」
「あ、マジで間に合わないじゃねぇか‼」
改めてちゃんと説明されたると本当に間に合わないじゃないかよ。と実際に驚いてみたものの、もうここまで来たらサボってしまってもいいんじゃないだろうか。
どうせ間に合わないのに怒られるために行くのもばからしいしな。
「言っておくけど、間に合いそうにないからってサボリは許さないからね?」
「ぐっ…な、なんのことかな?そんな事は欠片も考えてないぞ」
「そんな動揺しまくりでよく言うわね。表情に出てるって教えたばっかりでしょう。それよりも本当に時間がない事だし、本気で急ぐわよ?」
何とか誤魔化そうとする俺に翡翠が呆れを含んだ口調から、一気に真剣な表情でそう言う。それに俺は反射的に断ろうと思ったが我慢した。
これ以上は本当に無駄話している余裕がないからな。
「わかった。でも少しは加減するのを忘れるなよ?周りに迷惑がかかる」
「それくらいわきまえているわよ。むしろ和弥の方こそ壊さないよう気を付けなさいよ」
「俺も馬鹿じゃないわ!」
念のために注意したら何故か俺の方が注意されてしまった。侵害にもほどがある、俺だってちゃんと力の加減くらい知っている。
そんなくだらない事を話している間にも上履きから靴に履き替えた俺と翡翠は、校舎の外に出ると軽く準備体操を始めた。
「はぁ…」
「まだ何か言いたげね。でも後にしなさい、本当に時間が無いのよ」
「はいはい、分かってるよ」
ただ漏らしただけの溜息にまでいちいち文句を言って来るなよ。むしろ愚痴を言うくらいは甘く見て欲しいって話だ。
なんて考えている間にも柔軟が終わったのか翡翠はこちらを見ていた。
「まだ終わらないの?」
「もう終わったよ。翡翠がせっかちなんだよ」
「違うわ。和弥がのんびりしすぎなのよ」
「あぁ~もうそれでいいから、早く行こう!」
「…そうしましょうか」
このまま話続けてもまた不毛な口げんかになりそうだったので強引にでも話を終わらせた。翡翠も同じ事を考えたのか、少し何か言いたげだったが最終的には頷いた。
と言う事で後は簡単だ…
【【
俺と翡翠が同時にそう言うと俺達の体を淡い光が覆う。これが一般的にも知れ渡っているメジャーな魔法の1つで、効果は身体能力を強化するという単純な物だ。
もちろんこの魔法も使用者の魔力量や制御能力なんかにもよって効果が上下するんだがな。
「さて、ちゃんと発動したようだし行きましょうか」
「そんなこっち見なくてもちゃんと行くっての。ただ普通に行くのも詰まんないし、どうせなら競争しよう!先に着いた方のが飲み物一本奢りな‼」
「いいですよ?どうせ私が勝ちますからね」
俺の軽いふざけたような提案に翡翠は考えたりせずに乗って来る。実は翡翠は他の人間には隠しているが、死ぬほど負けず嫌いなのだ。なのでこういう勝負事の提案は十中八九、ほとんど例外なく乗って来る。
ただもちろん俺も負けるつもりはないけどな!
「なら勝負成立だな」
「えぇ、では…お先に行かせてもらいますね?」
珍しく笑顔を浮かべてそう言った瞬間、翡翠は強化された脚力で走り出した。
「って、なに一人でかってに始めてるんだよ!フライングすんなー‼」
競争なのにフライングで一人で走り出した翡翠を追いかけて、俺も全力で走り出す。本当に翡翠の奴は勝負ごとに関して油断ならないにもほどがあるわ!と内心でも悪態を吐きながら俺は必死に追いかけることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます