第69話 昇格

「ほう。生きて帰ったか」


 俺たちを迎えたグガイン中将の第一声がこれだった。


「中尉のことなら気にするな。あれはよく死ぬのだ」

「は……?」


 そういえば以前にも「また死んでもらう」と言っていたが……。


「まあ良い。どのみちもう今回の戦場では使えんのだ。お前たちは今回の功績で尉官に昇格するだろうな」


 チェブ中尉のことはあとでしらべるとしよう。

 にしても、在学中にも昇格はあると聞いていたものの、いざそうなると不思議な感覚だな。


「さて、お前たちが厄介なのを討ち取ってくれたおかげで我が軍は俄然有利だ。このままこの戦線を制圧するのも時間の問題であろう」


 ということはようやく休ませてもらえるということだろうか。

 そう期待したのだが、グガイン中将の言葉はこちらの期待には応えてくれなかった。


「明日、残る将のティレルを討つ。先陣を切る部隊をお前たちに預けよう。ティレルを打ち倒せ」

「仰せのままに……」


 命じられた以上仕方ない。

 よくよく考えれば姫様に仕えていたときは休みなんてなかったのだから、今日寝る時間をもらっているだけましだと思おう。あれ? そう考えるとなんかこう……結局事態が好転していないような……いや考えるのはやめよう。昇格までさせてくれるようだしちょっとはましだろう。


 ◇


 夜。

 グガイン中将は意外にも夜襲をかけた。

 昨日の口ぶりでは俺たちがもうひと押しすることに期待しているのではないかと考えていたのだが、どうやら違ったらしい。


「なんだぁ? 敵がすでに疲れ切ってんじゃねえか」


 アウェンの言う通り、見るからに疲弊した敵は前線で立っているのもやっとという状況だった。


「もしかして……」

「どうした? リルト」

「いや、グガイン中将、俺たちに手柄を譲るために準備してくれたんじゃないかなって」


 無さそうな話ではあるが一応口に出してみる。


「それはねえだろ」


 アウェンに軽く一蹴されてまあそうかと思い直した。


「けどまぁ、この状況なら俺たちで手柄を立てるのは楽かもしれねえな」


 俄然やる気になったアウェンが敵兵をにらみつける。

 狙うはティレルの首。そこまでいけばもう、ケルン戦線は取ったと言えるだろう。

 敵大将クライドの両手両足をもぐことになる。


「行こうか」

「おうよ」


 この日もまた俺たちは先陣を切り、誰よりも早く敵将のもとにたどり着いた。

 敵将ティレルはもう、半ばやけくそ気味に俺たちの前に姿を現し、あっさり死んだ。

 この活躍によりアウェンは少尉へ、俺は敵将四名を落としたことによって異例の飛び級を果たし、中尉になったのだった。

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