第67話 騎馬隊長ウォーカー
チェブ中尉の突然の死。
それにともない、二つの問題が生じた。
「他愛のないものだな……」
一つ目はこれだ。
「お前が騎馬隊長のウォーカーか」
チェブ中尉は魔法人形が主体とはいえ単体戦闘能力でも決して低いわけではなかった。
それがなんの抵抗もできずに生命を奪われたのだ。
さらに言えば、俺がその気配を察知できなかった。自分に矛先が向けば話は変わっただろうが、それにしたって全く気取られずに味方をやられたわけだ。
倒した二人とはレベルが違うと言える。そんな相手が目の前に現れたこと。
「リルト……いよいよ追い詰められたんじゃねえか……? これ」
もう一つの問題。
チェブ中尉が死んだということは、魔法人形の術者が死んだということだ。
つまりもう、俺たち二人は敵陣のど真ん中で孤立している。
「どうする? 来た道逃げるか、いっそこのまま進み切るか? それとも向こうの崖を駆け上がる魔法でも使えるってんならそこまでの道くらいは切り開くぞ?」
「させると思うか?」
不敵に笑う敵将ウォーカー。
周囲はウォーカー率いる騎馬隊が取り囲む。
逃げ場すらない状況だった。
「味方がここに追いつくにも時間がかかるだろうし……結構厳しい状況だね」
「のんびりしてる場合じゃねえだろ?! とにかくお前が逃げるのに一番いい方向だけ示してくれりゃあ俺が暴れる! お前だけは逃がすくらいのことはできるぞ」
アウェンは本当にいいやつだった。
「大丈夫だよ」
様子を伺っていたウォーカーと向き合いながらアウェンに言う。
「こうなる覚悟はしてきたから」
「馬鹿野郎! 死ぬこたぁねえだろ!」
「死ぬわけじゃないよ。ただこうなっても良いように、準備してきただけさ」
「なにっ⁉」
余裕を見せ続けてきたウォーカーが驚愕する。
「おいおいなんだありゃあ⁉」
ついでにアウェンも驚いていた。
さっきアウェンが逃走経路に上げた崖から、無数の動物たちが飛び出してきたのだ。
「こらっ⁉ 落ち着け⁉」
ウォーカーや騎馬隊の面々にとっては些細なことだが、突然現れた野生動物たちの急襲は彼らの乗る馬を混乱させた。
当然こちらの馬も暴れまわっていてアウェンが手懐けるのに苦戦しているのだが……こうなることがわかっていれば、先んじて馬を降りておけばいいだけだった。
「奇襲で悪いけど、その首もらうよ」
「なっ⁉ 貴様いつの間に⁉」
混乱する馬たちの間を駆け抜け、一気にウォーカーの喉元に迫った。
「舐めるなよ⁉」
ウォーカーは暴れまわる馬の上で、それでも矛を構えてこちらに向き合う。
「ふんっ!」
そのまま矛がこちらに向けて真っ直ぐ……いや、いくつかのフェイントを織り交ぜて繰り出される。
だが……。
「遅いよ」
「なっ……がはっ……」
攻撃を躱し、その矛を足場にしてウォーカーのもとに一気に近づく。
なす術のないウォーカーに致命的な一撃を与えた。
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