第66話 急襲

「うぉらああああああああ」


 アウェンが突進の勢いそのままに長剣を振り回す


「ぐぁっ⁉」

「がはっ……」


 アウェンの一振りが敵を一度に吹き飛ばしていく。


「なんだあいつ⁉ 」

「新入りだよ!」


 敵には恐怖を与え、味方の士気を高める良い動きだった。


「踊れ! 魔法人形よ」


 ほとんど同時にチェブ中尉の魔法が展開される。


「くそっ⁉ なんだこれは!」




 相手の部隊に動揺が走る。

 死を恐れぬ部隊はこのぶつかりあった騎馬隊の戦いにおいて大きな意味をもたらした。

 自ら馬の足元に飛び込んで敵を転倒させるという力技が大いに敵戦力を削る。


「リルト! お前は敵将のことだけ集中してろ!」


 二人の活躍のおかげで俺は索敵に集中できる。

 すでに周囲は敵味方入り交じる混戦状態だ。

 歩兵も追いつき、いよいよぐちゃぐちゃになってくる。

 だがチェブ中尉の魔法人形はこの混戦においても大きな役割を果たした。

 俺たちの周囲は狙い通り、黒い魔法人形が壁のようにうごめくことで、敵陣にぐんぐん食い込んでいく。


「覚悟はしてたけど随分孤立していくじゃねえか……」

「大丈夫、思ったよりチェブ中尉の魔法人形に相手が苦戦してくれてる」

「全く、セレスティア公国の練度の低さに呆れるばかりだな」


 自国民でいえば一般的な兵士の七、八割の力、と言っていたはずだしな。

 死なないということが混乱を招いた結果、逆に魔法人形が一人一殺のペースで蹂躙していく。


「あとは敵将を探し出すだけ、か」


 ティレルはこのまま敵陣を割って切り進めばいずれ会えるはずだ。

 問題はウォーカー。すでに騎馬隊もかなり打ち倒しているというのに一向に姿を見せる気配がなかったのだ。


「姿が見えないのは不気味だな」

「我々に恐れをなしたのかもしれないねえ……このまま切り進」


 チェブ中尉が喋れたのはそこまでだった。


「なっ……⁉」


 アウェンの顔が驚愕に染まる。

 そして俺もおそらく、同じ顔をしていただろう。


「中尉⁉」

「まずいぞリルト!」


 アウェンが叫んでくれたおかげで我に帰る。

 中尉が死んだ。

 一瞬の交錯で首を持っていかれたのだ。

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