第61話

「だからギークは俺を目の敵にしていた……のか?」


 帝国の東の果ての森の中で一人考えをまとめる。


「にしてもこれは……結構まずいことになってるなぁ」


 民衆軍レジスタンスはもともと王家を目の敵にしていたし、そのための組織だった。

 その必要性を王家も受け入れていたからこそ、盗賊団のように根絶させずに残してきたのだ。

 だが今回、彼らはそのお目溢しを受けられる範疇を踏み越えてしまっていた。


 もちろん民衆軍レジスタンスをかばう必要はないんだけど……。


「他国とつながったら彼らがいる意味はなくなっちゃうなぁ……」


 だがどうもいまのところ、それを止められる人間も王国にはいない様子だった。

 このまま行けば本当に国を揺るがす事態に繋がりかねない……。

 情報さえ届けば簡単に鎮圧してしまうのだろうが……。


「まあ今更俺には関係ない、といえばそれまでか」


 生まれ故郷ではあるが、育った孤児院はすでにないし、みんなそれぞれ生きているはずだ。

 身内と呼べる人間などいないし、思い入れがあるとすれば……。


「姫様……もまあ、生命は取られないって話だし」


 交渉のカードとしては最強なのだ。

 なんせあれだけのわがままを許していたのは他でもない国王なのだから。

 その生命と天秤にかけたとき、西の領地くらい手放してもおかしくはない。もちろんそれまでに色々と水面下での攻防は起こるのだろうけれど。


「まあでも、聞いた以上は対策くらいはしていいか」


 この場所までくれば姿を見せずとも姫様に手紙を届ける手段はいくらでもある。


「なにやってるんだろうな……」


 自分で出てきたというのにわざわざ自分から干渉しにいくというちぐはぐな行動に我ながらあきれるというか……。

 まあこんな所まで来てしまったんだ。いまさらだろう。


「それにしても……」


 なんて書き出そうか……。

 手紙くらいはよこせと言っていたわけだし、邪険にするようなことはないだろうが、それでも勝手に出ていった使用人からの手紙だもんなあ……。


「まあ、最低限今回のことに帝国の人間が噛んでいることさえ伝えればいいか」


 あとは逃げるなり王都に応援を求めるなり、やりようはいくらでもあるはずだ。


「時間もないしさっさとやるか」


 その場から離れようとしたところで、観察していたカルム卿に変化があった。


「あれは……」


 なにもない小屋かと思っていたが、カルム卿が不自然に家具を動かし始めたのだ。

 必要があるなら若い奴らがいた時に指示をすればよかったのに、だ。

 ということは……。


「何かあるな」


 観察場所を変えて慎重に近づいていく。

 窓から姿を盗み見ていたがなぜかそれすらも閉じ始めたので魔法で内部の様子を探る。

 何かゴソゴソと動かし始めてしばらくすると……。


「え……?」


 消えたのだ。

 気配が一切。

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