第57話四通目の手紙

「そういやリルト、お前に渡すもんがあったんだ」


 訓練を終えて自由になってすぐ、アウェンから封筒を渡される。

 さっと中身を確認すると姫様からの四度目の手紙だった。

 封蝋も見えないようにしてくれているところに配慮を感じる。


「ありがとう」

「にしてもこれ、俺もよくわかんねえけどすげえ高そうな身なりのやつが持ってきたぞ。お前、なんか大変なことに巻き込まれたりしてないか?」


 驚いて思わずアウェンのほうを見てしまう。

 こんな状況だというのにこちらを心配してくれていた。


「ありがと。大丈夫だよ」

「そうか。まあお前がそう言うんなら大丈夫なんだろうな」


 それだけ言ってアウェンはその話題を打ち切った。

 いや、最後に一言だけ、こう付け加えて。


「まあ、なんかあれば話せよ。できることはするからよ」


 本当に良い友人に恵まれたものだった。


 ◇


「さて、今回は……」


 手紙の内容を改めて確認する。


『リィトへ


 本当にいつになったら帰ってくるのかしら。

 まあいいのだけど……。


 何かよくわからないけれど、貴方は溜まっていた休暇? があるようだから、

 まだ罪に問われることはないみたいよ。

 良かったわね。


 でもそろそろ帰ってこないと大変なんじゃないかしら。

 別にその……なにか用があるのならいいのだけど、

 手紙くらい返せないものかしら


 とにかく死んだら承知しないから!

 それだけは守りなさい!

 絶対よ!

 いいわね!』


 なるほど……。

 どうやら俺はいま休暇ということになったようだった。

 姫様の態度がなぜ変化したのかはわからないが、早く帰ってこいとも、帰ってから何をするとも言わなくなったのは……。


「いっそ不気味だ……」


 素直に喜びにくいところがあった。

 メリリアとの話を思い出す。


 ──民衆軍レジスタンス


 グガイン中将へ暗殺の件を伝えるまでにおよそ三日の猶予がある。

 うまくいけばもう少しあるかもしれない。


「はぁ……」


 俺は帝国軍人。

 本来であれば間違いなく、この戦場で強敵となりうる相手を調査するなり、場合によっては手を下すなりのために動くべき猶予だ。

 だが……。


「気になるものは仕方ないか……」


 ここ、ケルン戦線から王国付近の情報を自分の目で集めようと思うと三日というのは物理的にかなりぎりぎりの距離だ。

 馬車を使っていたら全く間に合わないが、俺には別の移動手段がある。

 それになにも、必ずしも現地に行かなければ情報が入らないというわけでもない。


「やるか……」


 自分でもどうしてそう決意したかわからない。

 だがまあ、姫様にこちらの動向がバレている以上、全く向き合わないで居続けることも難しいのは確かだ。

 いや……。

 単純に気になったんだ。


 姫様の命令でなく、軍人としての規律に従うでもなく、ただのリィトとして、俺が気になったんだ。


 考えはあとでまとめよう。まずは王国に向けて走り出す。

 自覚した気持ちの整理ごと置き去りにするように。

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