第56話 指揮官アウェン

「アウェン!」

「おおリルト! 早かったじゃねえか!」


グガイン中将との話を終えた俺は近くにいるというアウェンの元を訪れていた。


「これは……」


訓練施設で一人剣を振るっていると思っていたのだが、予想に反してアウェンは指揮官としての訓練を行っていた。

率いる兵はチェブ中尉のあの、黒い魔法人形たちだった。

アウェンの指示に合わせて動く黒い人形たち。


面白いことに魔法人形たちは指示に忠実が故に、アウェンの指示が的確でなければ思わぬ動きをする。その度頭をかきながらもなんとか正しい指示を与え直すアウェン。

その様子を眺めていると術者であるチェブ中尉が後ろから現れた。


「おやおや、こんなところにいていいのかねぇ? 君には時間がないのではないか?」

「報告に戻っていました」

「そうか……ならせっかくだ。見ておくと良い」


そう言うとアウェンの兵に対峙するように、対面にも黒い兵士たちが生み出されていく。


「数は互角。ざっと五百程度かねぇ。これで彼は陣形と指揮について学んでいる」


五百というのは軍全体でみれば小規模かもしれないが、こうして並べればそれなりの規模になる。

その陣形を整え、また相手の陣形を瞬時に見抜いてぶつからせるというのは確かに、こうして実践で学べるのは大きな糧になる。


「私の兵は死を恐れぬ。戦闘力そのものは練度ある兵には及ばないが、それでも的確に指示を送れば役に立つし、なにより……」


「潰し合いに最適化されていますね」

「そのとおり」


アウェンの戦いを見ているとわかる。

普通は陣形というのは相性があるのだ。相手の陣を見極め、こちらが有利なものをぶつける。

その予想と実践によって戦闘は行われるんだが……。


「あえて同じ陣形を組ませている」

「同じ陣形同士というのは、最も苛烈な戦場を生み出すからねぇ」


確かに理にはかなっていた。

このやり方はチェブ中尉のこの魔法で行う分には最善と言っても良い。

こちらの被害は殆どないままに相手に甚大な被害をもたらすのだから。

だがチェブ中尉は、いやグガイン中将はこれを、生身の兵士にも強いるのだ。

だからこそこの戦場は常に激戦区となる。


アウェンの訓練の様子を眺めながら次のことを考える。

公国のキーパーソンを暗殺済みであることをグガイン中将に伝えた時点で、俺もアウェンもこの地の戦争に巻き込まれていくことになる。

幸いアウェンは戦場の駒として使われることは避けられたとはいえ、激戦区であることに変わりはない。

もう少し、この戦場で二人とも確実に生き残る方法を考えたいところだった。

だからこそ暗殺済みであることを伏せておいたんだが……。


「持って三日くらいか」


その間になにか考えないといけないな。

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