第50話グガイン中将
「活きの良いのをお連れしました。グガイン中将」
「ご苦労、チェブ中尉」
リンド城から数日。
俺とアウェンはケルン戦線の作戦指揮を執るグガイン中将の元へ連れられていた。
「さて、貴様らが新たな駒というわけだな」
チェブ中尉よりも大柄、というより、見ようによっては醜いと言っていいほどでっぷりとした腹が目立つ男が、グガイン中将だった。
「この度は……」
「良い。くだらないことは好かん。お前達には早速だが任務を与える」
「任務……?」
到着直後に一体何をと考えるが、考えがまとまるよりも先にグガイン中将が乱暴に書類を俺たちの前に投げ捨てるように置いた。
「一通り目を通せ。そしてそこに記されたことをこなせ」
さっと目を通すが、そこには敵勢力の配置図や重要人物に関するプロフィール情報が記されている。
この資料の形式は……。
「暗殺……ですか」
「ふむ。頭は回るようだな。だがそれだけではない。情報を引き出すだけで良い場合もある」
よく見れば確かに殺すにはあまりにハードルの高い人物までピックアップされていた。
敵のエースクラスであったり、そもそもの総大将であったりだ。
「失礼しました」
確認不足を形式上詫びておく。
気にする様子もなくグガイン中将が続けた。
「お前がいかに賢かろうが、お前には残念ながら帝国軍人としての芯になるものが感じられん」
ドキッとする。
奇しくも数日前、ギークに言われたことと全く同じだったからだ。
「貴族というのはそれだけで信用ができる。帝国のため、身を粉にして働くという信用がな……だが貴様にはそれがない。血の縛りがないのだ。そのようなものに武器を与え、情報を与え、使役するリスクを犯すくらいであれば、私はさっさと前線でそいつを殺す」
禍々しいとも言えるオーラを放ちながら俺に詰め寄ってそう告げるグガイン中将。
その気迫はまさに、帝国が誇る百戦錬磨の男にふさわしいものだった。
「だが今回は特別だ。お前が活躍するたび、この男の寿命が伸びる」
「え?」
横にいたアウェンを指して告げるグガイン中将。
「いいか? こいつはお前と違ってただ少し役に立つだけの駒だ。駒など所詮使い潰すもの、いつ潰すかは私の裁量で決まる」
そういうことか……。
「お前が情報を持ち帰る度、この男の前線送りは遅らせる」
「リルト、気にするこたぁねえぜ。俺は前線だろうがなんだろうが大丈夫だ」
アウェンがそう言うが、個の武力でなんとかなる問題ではないところも往々にしてある。
特にアウェンは一極集中型の才能を持つタイプ、搦手で来られれば一気にやられる恐れもあるのだ。
物理攻撃が主体ではどうしても、数の多い敵には不利だからな。
「情報一つでどの程度……?」
「三日。最初の猶予は十日やろう」
「わかりました」
「ほう。諦めたか? 少しは条件に対して食い下がるのではないかと思ったのだがな」
「いえいえ」
十日以内にまず一人目を、その後は三日以内……。
十分すぎる猶予だ。
姫様には五倍のスピードを求められていたからな。
「お心遣いに感謝します」
「ちっ……もう良い。アウェンと言ったか。お前もただの人質ではない。それ相応のはたらきは見せてもらうぞ」
「おうっ。お任せあれ」
「ふん……確かに活きの良いやつらを連れてきたものだな、チェブ中尉」
俺とアウェンの態度が想定外だったようで、矛先をチェブ中尉へと移すグガイン中将。
だがチェブ中尉も慣れた様子でその口撃を躱す。
「お褒めいただき光栄の至り」
「まあ良い。お前には死んでもらうぞ……今回もな」
今回も……?
チェブ中尉は表情を崩さずこう答えていた。
「帝国のためならば喜んで、この命差し出しましょう」
「良い心構えだ。帝国軍人たるもの、貴族たるものそうでなければな」
二人は二人でなにか妙な関係値でつながっている様子だった。
「リルト。俺のことは気にしねえでいい。ガンガンお前のやりたいように活躍しろ」
「ありがとう」
アウェンは俺を安心させるように満面の笑みで送り出してくれた。
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