第41話戦略訓練⑭
はっきり言ってギークを舐めていた。
あいつは俺と戦いながら、両サイドの二人、エレオノールとリリスの戦いを正確に捉えていたのだ。
もともとの配置上、俺からはアウェンとサラス、そしてギークからはエレオノールとリリス側からの視点しか見えなくなっている。その中で戦いながら、こうも見事に相手の弱点となりうる核を正確に見極めていたのは、見事としかいいようがない。
「はっきり言って中盤戦、ギークが入ってからのやり合いは完全に後手に回った」
辺境伯という国有数の大貴族の跡取り。
入りがバードラと同じような感じだったせいで油断していたのは大きなミスだった。
「姫様と離れて気が緩んでいた……」
改めて見れば相手は実戦経験まであるというベテラン。
俺が勝てたのは運の要素もあったのだろう。
「気を引き締めなおそう」
この勝負はもはやどうしようもないが、ここから勝ったとしてもメリリアとアウェンの力。
勝ったとしても負けたとしても、俺がギークに負けた事実はもう覆らない。
「これが帝国の貴族か……」
◇
「おおよそお前らの力は見れた。今日はここまでだ」
ギルン少将の声が教室に響く。
「ちっ……」
ギークが舌打ちした理由はこれだ。
「勝負がついていないものも、今日はこれで終われ」
結局勝負は引き分けに終わった。
講義の時間内はおろか、このまま続ければ何日も決着がつくまで日にちを要するだろうことから。
メリリアとサラスは盤上に無数の拠点を並べ敵を撹乱。
一方エレオノールも最後まで盤石の本陣を崩すことなく拮抗した。
アウェンはその鋭い感覚で兵を進ませ善戦したが、進軍の度にギークが仕掛けた細かい罠に足止めを食らった。
守備対守備の勝負になったサラスとは対照的に、攻撃と攻撃がぶつかり合い拮抗した。
「なかなか面白いものが見れた。今日最も面白かったのはそうだな……やはりリルト、お前だな」
「ありがとうございます」
「だがその後は良いようにやられてたな。実戦経験の重要性にも気づけていい機会だっただろう。励め」
「はい」
何もかもお見通しのようだった。
講義が終わり去り際、すれ違いざまの一瞬で、ギルン少将は俺にだけ聞こえるようにこう告げた。
「剣術訓練。気をつけていけ」
「え……?」
振り返ったときにはすでにギルン少将の姿は見えなかった。
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