第42話剣術訓練①
剣術訓練当日。
ギルン少将の警告の意味はなんとなくつかめてはいたものの、確信が持てないままここまできた。
要するに講師の人間が典型的な貴族絶対主義の人間だということなんだが……。
「ようこそ私の授業へ。剣術訓練、と呼んでいるが得物は何でも良い。君たちにはつまるところ、現地でコマとして動いてもらえばそれでいいのだから」
講師はカールしたひげが特徴の男爵であり……軍としては中尉の階級を持つチェブという男だった。
「戦略訓練、なんてだいそれたものをやったところで、所詮君たちは使われる側。私のような選ばれた人間がそれを使う。今日は使われるコマとしての力を存分にみせてほしい」
その様子を見ていたアウェンとサラスは露骨に嫌そうな顔をしていた。
「また面倒そうなのが来たな……」
「性格がネジ曲がってる」
そしてお約束と言っても良い気がするが……。
「もっとも、この場には非常に優秀な生徒もいるがね。メリリア殿下やギークくんのように、選ばれた側である優秀な生徒も。その場合は適当にやってくれたまえ。君たちをいきなり前線に送ったりしないさ」
大貴族や王家の人間には媚を売っているようだった。
◇
「では、得物はもったかね? 君たちも聞いているだろう? もうすでに初陣まで日がない。よって今日はどの程度使い物になるかを測るだけの日だ。ああ入学試験組は一度やっていると思うかもしれんが、あんなお遊びでやった気になってもらっちゃあ困る」
口元を歪めたチェブ中尉がこちらを見て笑う。
「これがなにかわかるかね?」
そう言いながら地面から何かが生えてくるように、黒い塊が複数出現した。
「曲がりなりにも特別クラスなんて呼ばれているのだ。戦場で一対一などありえん。お前達には一人で複数の敵を薙ぎ払ってもらう必要がある」
そう言う間にもどんどん黒い人形のようなものが増えていく。
「土魔法の応用……ひげはださいけど力はある」
サラスが言う。
なるほど……確かにこれだけの数を溢れさせられるのはすごい技術だろう。
「さて、それではこの人形とやりあってもらおう。もちろん、魔法による攻撃は禁止だ。だが魔法を利用した戦闘はかまわない。自己強化をしてもよい、武器を強化しても良い、空を飛んでも良い。攻撃に物理的な要因が噛み合っていればそれでいいとしようではないか」
区画ごとに百体近くの人形が並ぶ。
それぞれ相手をしろということだな。
「では、なにか質問はあるかね?」
「失礼ながら……」
「ほう。ギークくんか。よかろう」
「これはすべて倒すまでの時間をはかるものですか?」
それはある種の挑発だった。
「おい……見るからにあんな数相手になんて……」
「魔法ならともかく、百はあるのに……」
挑発の相手は講師ではなく、クラスメイトたちだったわけだが。
「良い質問です。答えは……」
チェブ中尉の腕から黒い魔法がほとばしり……。
──ドゴン
自分で繰り出していた人形たちにあたって木っ端微塵に吹き飛ばす。
だが次の瞬間には、何事もなかったかのように黒い人形は元の姿に戻っていた。
「なるほど……わかりました」
その様子を見てギークも引き下がる。
無限に湧いてくるというわけだ。あの人形は。
「戦略訓練は中途半端になったし、メリリアの興味がこちらに向き続けるように頑張らないとだな」
気を引き締める。
ギルン少将の忠告の件もあるが、それは別にしても、全力で当たることにしよう。
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