第40話戦略訓練⑬

「サラス、敵の攻撃部隊はおそらくどれもそんなに大きな規模では来ない。落ち着いて対処すれば今までのやり方で抑え込めるはずだ」

「ん……」


 半分借りるとは言ったがルール上出来るのは助言だけ。

 だがサラスならそれで十分だ。


「何を……?」

「敵の作った要塞を壊さないと勝てないゲームじゃない。こちらも改めて拠点を作れば良い」

「どうやって……」


 各地に散った部隊を都度集めながら戦うサラスの戦法。

 これに合わせた拠点構築を行う。


 敵の部隊はほとんどあの要塞にいる。ギークが仕掛けてきたとしても少数。

 それをサラスが押さえ込む間に複数の拠点を作り上げる。

 と、指示を出し始めたところでメリリアがこちらにやってきた。


「リルトさん。これは……」

「文献でみたけど、西方戦線でゲリラを得意とする相手に使われた戦略だったかな」

「ええ……コーランド商国の傭兵団にやられて……」


 帝国は兵数で圧倒しながら攻め手に欠け、勝機を逃した。


「ゲリラ戦を得意とするのはサラスも同じみたいだし、拠点構築ができればあとはメリリアに任せられるかなって」


 終盤戦、互角以上にしておけば十分だろう。


「私のことを試しているんですか……?」

「まさか」

「仕方ないですね……わかりました。やるべきことは理解しましたのでここからは私が引き継ぎます」


 そう言うとすぐ、メリリアはサラスに動きを伝えていく。

 淀みない指示は俺よりスムーズで的確だ。


「その代わり、あちらをなんとかしてきてください」


 メリリアは盤上から目を離さず、アウェンの方を指差してそう告げた。


 ◇


「リルトか。この状況、どう見る?」


 アウェンのもとに着いて盤上を見る。


「これは……」


 最後に見たとき相手の布陣は一隊だけ意味のない、正確には意味がわからない配置に置かれていた。

 だが今、盤上には無数の『意味のないように見える部隊』が立ち並び、対処に迷ったアウェンが動けなくなっていた。


「これは全部あの相手が……?」

「ああ。でも全然戦い方が変わった」


 つまりギークの入れ知恵ということになる。


 この戦略、一見して意味のない布陣ではあるが、こちらも無策に飛び込みにくい形にはなっている。

 アウェンは感覚で戦うタイプなので本来であればこういった奇策は通用しにくいはずだが、戦う相手のタイプが変わったことで足が止まったようだ。


 どこから攻めればいいかだが……。

 サラスとは全く違う方向にアウェンも自軍の運用は正攻法ではないため、終盤に来てごちゃついている状況がある。


 となると……ギャンブルになるし、メリリアに頼ると言っていた話がなくなるわけだけど……。


「アウェン。感覚を信じるとして、敵本陣だけを目標にして突っ込ませたらどうなる?」

「あぁ⁉ そりゃ……あれ? そう考えると道が見えてくるな……」

「敵は四方に意味のない布陣を敷いていて手薄。中央でのぶつかり合いなら勝てそうじゃないか?」

「ああ……ちょっとちょっかいかけてきそうなところや怪しい気配のあるところはあるが、それを避けりゃいけるかもしれん」

「なら行ってくれ」

「いいんだな?」

「ああ」


 感覚でそこまで捉えているアウェンであれば、いい勝負に持ち込めるはずだ。

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