第38話戦略訓練⑪
サラスの相手はエレオノール。
アウェンたちの戦いはお互い感覚派のぶつかり合いだったのに対して、こちらは二人とも理知的に盤上を動かしているようだった。
メリリアが言っていたとおり、サラスは相手の動きを読むことに長けており、一方エレオノールは自軍への理解があるため遅れて動いたとしても安定して兵を動かすことができている状況だ。
となると、俺がサラスの自軍に関するフォローをすれば一気に優位に傾くのではないかと思っていたが……。
「これ……アウェンよりまずいんじゃ……」
サラスの兵の運用方法は、作戦に最適化されすぎていた。もちろんこれは盤上の動きとしては申し分ないのだが、ことこのシミュレーション戦においては問題になる。
これが盤上で駒を動かし合うだけのゲームなら問題ないんだが、ギーク戦であったように、兵の士気などまで反映される状況では少しまずい。
自軍のシナジーが一切無視された布陣になっているのだ。
各個部隊がそれぞれに最適な行動を取ろうと動くため、局地的にはサラス優位で進んでいるが、全体を見るとエレオノールの守りが盤石で攻め手がない。
一方サラスは各隊が呼応することなくバラバラに動いてしまっているので守りは絶望的な状況と言えた。
そしてそこにおそらくギークの仕掛けた動きが見える。
「サラス! 本陣の後ろ、三隊来てる」
「──⁉」
おそらく初めて、サラスが後手に回った。
突破口がどこかにないかと探して改めて盤上を見つめる。
いや待て。これは……。
「大丈夫。本陣は、囮」
サラスの動きはこちらから見ていた俺ですらわからなくなっていた。
当然相手に気づかれるはずもない。
サラスは本陣にいるはずの主力部隊を進軍させていた。
個別の部隊のいくつかも陽動。主力部隊はすでに敵の眼前に迫っていた。
「すごいな……」
こちらから見ていて気づかないほど巧みな用兵術に素直を感心する。
だがサラスは自信なさげに呟く。
「でも……」
サラスの作戦はあたった。
自軍の本陣をおとりにして敵本陣へ主力部隊で急襲。ここまではサラスのイメージ通りに運んだ。
「敵本陣の守りが予想以上、か」
「ん……正直、相手をなめてた」
サラスとしても自軍本陣への急襲は予想外だったらしい。
本陣が空っぽだと暴かれればここまでじわじわ進めてきた主力部隊による奇襲も成立しなくなる。
そうなると純粋な兵力の勝負だ。今の盤上でそれをやれば……サラスは負ける。
「リルト……どうすればいい?」
サラスが初めてこちらを見てそう言った。
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