第37話戦略訓練⑩

「どういうことですか? リルトさん」


 すぐメリリアに捕まった。

 二人の優位を主張していたメリリアは納得できないと言わんばかりだ。


「このままお二人が頑張れば私も貴方と遊べたというのに……」

「そっちか……」


 やりたかったんだな……メリリアも。

 だがギークのは単なる挑発ではない。実際あのままやれば勝算が高いのは相手だったと思う。


「二人は多分、これ初めてだから」

「それはリルトさんもでしたよね?」

「そうなんだけど、俺は最初から勝ち切るための戦略を取ったけど……拮抗させてしまった場合、決着の付け方を知ってる相手の方が有利だと思うんだ」


 俺の場合最初から勝ち切るために仕掛けを施していたし、それがうまくハマったから勝った。

 だが二人は序盤戦から現在の中盤戦に至るまで、ある意味では順調に、そしてある意味では仕掛けなくここまで来ている。

 序盤、中盤戦の考え方と、終盤の詰め方は全く異なる。その差は経験と知識の差がそのまま出てくるはずだ。


「メリリアのその知識が二人の助けになるんじゃないかと思って」

「確かに私にはその知識はありますが……」

「これはメリリアの持つ詰めの知識と気付きを、向こうの三人と競い合う戦いとも言えるかもしれない」

「なるほど……そのために私を巻き込んだと……」


 メリリアが改めて盤面に視線を移す。


「俺と単純にやり合うのもいいけど、こっちはこっちで楽しいんじゃないかと思って」


 メリリアの目の色が変わる。


「ふふ。いいでしょう」


 良かった。

 そのままメリリアが言葉を続ける。


「この盤面であればまだ勝負はつかないはずです。しばらくリルトさんのサポートで進めていただき、詰みへの道筋が見えたタイミングで代わるというのはどうでしょう?」

「わかった」


 中盤戦は二人がうまくやっているし、俺がやることは少ないだろう。

 向こうもおそらくだが、ギークの役割はメリリアに近いものになるだろう。

 この勝負、メリリアとギーク、どちらが先に「詰み」への道筋を見いだせるかの勝負になりそうだった。


 ◇


「リルト。ちょっと手伝ってくれ」

「わかった」


 アウェンに呼ばれて地図の前に向かう。


「この状況、どう見る?」

「なるほど……」


 アウェンの相手のリリスがこちらに見えるようにあえて、一隊だけ本陣から少し離れた何の意味もない場所に兵を配置したのだ。


「アウェンはこれまでどうやって戦ってきたの?」

「ん? なんとなくここだ! ってとこに殴り込んでたらこうなった」

「無茶苦茶だな……」


 だが一方でこういった感覚に鋭い将は戦地で臨機応変に動けるために重宝される側面もある。

 付き合う兵はたまったもんではないとも聞いたが……まあいい。


「で、今回のはアウェンの感覚的に……」

「わかんねえんだよ。あれが罠かも、何のためかも、こんなん初めてでな」

「なるほど……」


 ギークが参戦してすぐ。

 仕掛けたのはギークと見て間違いないだろう。

 多分だけど、あれはアウェンの動揺を誘うためだけの布陣。だが俺たちが気づいていないだけで、後々なにかあるかもしれない。

 だったら……。


「あれは全く意味がない誘いのはずだよ。アウェンはあれは無視して今まで通り戦ってくれればいい」

「おっ! やっぱそうか! じゃあ任せとけ!」


 迷いの吹っ切れたアウェンは即座に兵を動かす。

 たった一隊とはいえ意味のない配置に兵力を割いたリリスは後手に回る。

 中盤戦の戦況はこれでアウェン優位を維持できるだろう。


「後半戦……あれがなにか意味を成す可能性だけは俺が考えておこう……」


 アウェンには得意分野で集中してもらったほうがいいからな。

 ひとまず離れて大丈夫だろうと判断し、サラスの方に目を移した。

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