第36話戦略訓練⑨

「素晴らしい采配でしたね。リルトさん」

「いや……今回のはこのシミュレーションだからできた話だから……」


 双方に決められた兵力、外からの増援やイレギュラーが限られた状況だからこそ、あんな作戦が使えただけだ。

 普通はギークの言う通り、あの作戦は博打の範囲に入るだろう。

 それにあれを警戒して対処されれば敵地で孤立する魔法使い部隊など簡単にやられる。そうなるとこちらにはもう勝ち目はなかった。


「ですが、それらを加味して最善手を組み上げる手腕は流石ですね」

「ありがとう。それより二人は……」


 あんまり褒められるのは居心地は悪いので無理やり話を変えた。


「サラスさんは互角ですね。もともと広い盤上でほとんど互角の平地戦。サラスさんは相手の陣形を読んで動きます。一方エレオノールさんは自陣の兵の特性をとてもよく理解されています。サラスさんの読みに対して、自陣のコントロールを完璧に行うことで拮抗が保たれています」

「そっちは大丈夫そうか……。アウェンは……」


 もう負けてたりしないだろうか……。


「アウェンさんとリリスさんの勝負はなんというか……お互い山岳に陣を張り斥候と奇襲がものを言う盤面なのですが、アウェンさんがことごとくリリスさんの策を見抜いたかのように撃ち破っています」

「おお……」


 こう言ってはなんだがアウェンは自分が戦うのは好きだがこういった規模の大きな戦闘を指揮するのは苦手かと思っていた。


「判断基準は不明ですが神がかり的な采配です。ただリリスさんは攻撃より防御がうまいので攻め手はこれといった戦果がありません」


 なるほどと思っているとメリリアがもじもじし始める。

 なんだろう……。


「あの……早く終わったことですし、私とも一戦、やりませんか?」


 上目遣いで尋ねてくるメリリア。

 だが答える前にギークが話に入ってきた。


「提案があるのだが、良いかな?」

「なんでしょう?」

「そちらはメリリア殿下とその男が、こちらは私が、それぞれ助言をしても良いというルールはどうかと」


 なるほど……。


「その男は気付いているかもしれんが、このままいけばこちらの二人が勝ちますので」

「それはいくらなんでも……攻めているのはこちらですし、優位はこちらにあるのでは?」

「ふむ……リルトと言ったか? お前はどう見る?」


 ギークに尋ねられて答えを迷う。

 メリリアが言うようにぱっと見優位はこちらなんだが……。


「確かにこのままやると危ないかもな……」


 サラスとアウェンに秘策があればともかく……。


「では」

「やろうか」


 向こうの申し出を受ける形でチーム戦がスタートした。

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