第21話 キリク視点 それから
それからリィトはまたたく間に王宮で行うべき仕事を全て吸収していき、半年も経つと彼に出来ない仕事はなくなって、一年も経った頃にはもう、私が見てる限り誰よりも仕事ができていた。
私の身の回りの世話をさせるために連れてきたのに、何でもできるリィトはいつの間にか大人たちに引っ張りだこになっていた。
「リィト。ちょっとお茶を」
「ごめんキリク様。僕ちょっと頼まれごとをしててね」
「リィト。この服なのだけど」
「すみませんキリク様。今手が離せないもので……」
「リィト」
「申し訳ありませんキリク様」
本来なら私の言うことを無視するなんてとんでもないこと。
だけどリィトはなんでもこなすから、いつの間にか私より発言権のある大人たちに取られていた。
だから私は、リィトを自分専属の執事にした。
「痛くはありませんか? お嬢様?」
「うん!」
髪を梳かしながらリィトが聞いてくる。燕尾服もすっかり様になっているし、私を一番に考えることが仕事になった。
しばらく独り占めに成功した。
でもそれも、長くは続かなかった。
リィトは優秀すぎた。
「リィト!」
「はい。今日の髪型はこちらです」
「え、いつの間に……?」
「食堂に食事もご用意してあります」
「ええ……」
「では私は少しビレイン卿の元へ行ってまいりますので」
「えっと……」
私の生活に必要なことは全て先回りで済ませて他の仕事まで抱え込むようになったのだ。
当然、優秀なリィトを周囲の人間は手放さない。
私もそれなりにやることが出てきただけに、リィトとの時間は日に日になくなっていった。
「リィト?」
「どうされましたか? お嬢様」
だというのに、仕事は完璧。
こうして呼び出せばいつの間にか私の前に現れる。
だから私は……。
「リィト、貴方に命令を与えるわ」
リィトでも出来ないだろう仕事を考えて、押し付けて、私以外に構う時間など作れないようにしたのだ。
リィトはそれすらもすべてきっちりこなし続け……そして……。
「……」
考えれば考えるだけ、色んな感情が沸き起こって押しつぶされそうになった。
でも……。
「絶対見つけてやるんだから……」
たとえ地の果てまで追いかけてでも……絶対に見つけ出す。
私から逃げるなんてとんでもない。許されないことだ。
見つけたらどうしてやろうか……。
まず紅茶を入れてもらわないといけない。リィトより美味しく紅茶を入れられる使用人はいない。
次に髪のセットだ。リィトほど私の髪を知って、整えてくれる人はいない。
庭木も気に入らなくなってきた。私の気分に合わせて庭師に指示をだしていたリィトがいないから。
あとは……。
やらせることはいくらでもある。
でも……何よりもまず……。
「絶対見つけて……」
そして……。
「謝って……やるんだから……」
枕はもう、涙でびしょびしょになっていた。
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