第20話 キリク視点 思い出

「なんとしても探し出しなさい!」

「で、ですが国内どこを探しても見当たらず……」

「でも見つけるのよ! なんとしても!」

「そんな……」

「できないのかしら?」

「い……いえ! すぐにまた捜索隊を送ります!」


 リィトが旅立って数日。

 最初は彼がいないことに対する怒りが募る王女キリクだったが、何日経っても現れない執事に焦りを覚えていた。

 頭を過るのは自分のせいでリィトがいなくなったのではないかという後悔の念。

 そんな不安を払拭するために、同じ過ちを繰り返していることにキリクはまだ気が付かない。


 たった数日しか経っていないのに、代わりに充てがわれた執事はすでに3人も職を辞していた。


 ◇


「どうして……」


 もう何日もろくに眠れていなかった。

 毎日あいつのことを思い出してしまう。


「どうして私の前からいなくなったの! リィト!」


 許さない。見つけ出さないといけない。

 なんとしても……どんな手を使っても……。


「絶対見つけ出す……」


 あいつと初めて会ったのは、私が嫌々連れて行かれた孤児院へ慰問で訪れたときだった。


「まさか王女殿下にお越しいただけるなんて……! 光栄でございます」


 なんかふっくらした見栄えしないおばさんがそんなことを言ってた気がする。

 私を連れて来たビレインもよくわからない挨拶をしていた。


「グランマ! これここに置いとくよ」

「ああ、いつもありがとねえ。リィト」

「ほう……あの年齢で手伝いを……?」

「いえ……実はお恥ずかしいのですがあの子のこなす仕事はもはやお手伝いの領域を超えていまして……洗濯物や掃除、孤児院中の食事の管理まで、むしろ最近では私がお手伝いのようで……」

「なんと!? 彼は一体何歳ですか?!」


 大人二人がそんな話をしている横で、たしかに彼はよく動いていた。

 お城で私の着替えを手伝うメイドも、食事を持ってくる給仕も、あんなにテキパキ動かない。

 同世代くらいの彼に目を奪われていると、あろうことか、生意気にもあいつは私に手を振ってきたのだ。


「っ!?」


 一瞬だった。

 それだけで、私に興味なんて失ったみたいにあいつはまた仕事に戻った。

 本当によく働く男だった。


「ビレイン。あいつを連れて帰るわよ」

「キリク様……流石お目が高い。私もそうするつもりでした」


 孤児が王宮に連れて行かれるなんて名誉なことこの上ない。

 孤児院にもお金が入るし、選ばれた孤児は大出世だ。

 きっと私に感謝して頭を下げるに違いない。

 そう思って声をかけた。


「喜びなさい。私は貴方をお城へ連れて行ってあげるわ」


 だというのにあいつは、大した反応も見せずにこういったのだ。


「へえ。君はお姫様なんだね。僕はリィト、あっちにおいしいりんごが生ってるんだ。一緒に食べようよ!」

「へっ?! ちょ、ちょっと!?」

「はは。気をつけて行くのだぞ」

「ビレイン!? ええ?!」


 同世代の男の子と話したこともほとんどなかった。

 だというのにいきなり手を取られて、突然走り出して、私はドレスで動けないのに、おかまいなしに走っていったのだ。


「はぁ……はぁ……あんた……」

「はい」

「なんなのよ……ほんと……」

「食べてみて」


 そう言われて仕方なくかじる。


「ぁ……」

「どう?」


 でも、その時食べたりんごよりおいしい食べ物を、私はまだ知らない。

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