第19話 入学試験編⑩

 やりづらい空気の中だがとりあえず進み出ていると周囲の声が聞こえてきた。


「あれって試験前に……」

「あー! あれならたしかに納得だわ」

「何の話だよ」


 広場の一件を見ていた人間からはこんな声が上がる。

 そして一方で……。


「なあ、あの貴族の男……」

「ぷふっ……いや笑ったら可愛そうだって」

「いやでもなあ……ふふ……」


 目立ったバードラに対する嘲笑もよく聞こえてきた。

 自業自得なんだけど……そんなことが通じる相手じゃないことはここまででよくわかっている。


「貴様ぁ……」


 顔を真赤にしたバードラに睨みつけられながらメリリア殿下やアウェンたちのもとにたどり着いた。

 そして呼ばれていないバードラはこう告げて下がっていった。


「よろしいよろしい。これは私の実力をしっかり見ておきたいという学院の意向だろう? みなまで言わずともわかっているさ」

「さすがバードラさんなんだぜ!」

「あんなやつより注目されるべきお方だ!」


 それでも周囲の好奇の視線は止むことなく、顔を赤くして握りこぶしをプルプルと震わせるバードラへ惜しみなく注がれ続けていた。


 ◇


「はぁ……はぁ……なかなか、やるじゃあ、ないか……」


 杖を片手に息を切らすバードラがそこにはいた。


「ねえ、あのバードラってやつ一人で何やってたの?」

「試験官のあの人、一歩も動いてないのに全部外すって、そんなこと普通ある?」

「試験官がすごいのかもしれないけど……どっちにしてもありゃ合格はないだろ」


 周囲の言葉通り、俺は一歩も動かなかったんだが、バードラの魔法はわずか3発しか俺のもとには届かなかった。

 威力もないに等しい状態だったので軽く受け止めただけ、見た目こそ派手な魔法を使うんだが、はっきり言って実力がないようだった。

 ただそのことに本人だけは気づいていないようだった。


「だが私の力はこんなものではない。見ろ。その証拠にお前は一歩もそこを動けていない。私があえて外してやっていなければこうはなっていない。降参するなら今だぞ?」


 流石に相手が面倒になったのでギルン少将に目線を飛ばすと、静かにうなずいた。

 ギルン少将が「もう終わらせてやれ」と目で訴えかけてくる。

 決闘といったもののこうも力差があるとあまり機能しないようだった。


「お前はなかなか見込みがある。私に跪いて許しを請うなら先程の件も私の力でなかったことにしてやってもいい。どうだ? 悪い話じ──かはっ!?」


 喋ってて隙だらけだったので後ろに回り込んで手刀を落としておいた。

 死にはしない。いやまあ……決闘のこと考えると家ごとなくなるってことは……。というかそもそもあのメリリア殿下が最初に自分の方に飛んできた魔法に気づいてないはずがない。許されないだろうな。


「はい。じゃあ次の人、どうぞ」


 嫌なことを考えても仕方ない。

 俺はいま試験官。なるべく相手の実力をフルに発揮させてあげるように戦う、とのことだったのでそれに集中しよう。


「え……バードラってやつ、急に倒れなかったか?」

「あの試験官なんかしたか?!」

「見えなかった……」

「いや一瞬消えてただろ」


 なぜかバードラとやったあと、俺の列から人がいなくなってしまった。


「困った……」


 仕方ないから他の人の様子を見ながら誰か来てくれるのを待つことにした。

 ふと頭をよぎる。


「姫様大丈夫かな?」


 心配なのは姫様より、周りの従者だったりするけど……。

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