第6話 親切

「武器は何がいいかわからなかったから剣を。無銘だがいい剣だよ。前の持ち主も大事にしてきたからねえ」

「こっちもよく使い込まれてるが、相当大事に使ってるな。手入れもずっとプロがやってきたみてえじゃねえか」

「あら。嬉しいこと言ってくれるねえ」


 ということは……。


「私のお古さ。見ての通り手入れはばっちりなんだが、いつしかそっちが楽しくてこうしてるってわけさ」


 すごい……。見た感じまだまだ若いのに剣士として冒険者か何かをやっていたということなんだろう。


「いいのか?」

「良いさ良いさ。むしろすぐに気付けなかったのが悪かった。お兄さん、だいぶ鍛えてるじゃないか」


 ペタペタ身体を触る店員。

 良いんだけどなんか落ち着かないな……。相手が美人なだけになおさらだった。


「さてと。サイズもわかったことだしちょっと調整するよ」

「ほー。いまのでサイズまで測ってたのか。腕は確かだな」


 アウェンが感心していた。


「ふふん。そこは任せなさい。お兄さんはその間に剣のフリ心地でもためしといてくんな」

「ありがとう」


 渡された剣を改めて握り込む。うん。良い剣だ。軽く素振りをしてみることにする。

 ひゅんひゅんと小気味よく動いてくれる。重さ、サイズも丁度いいし、手入れが柄まで行き届いているおかげで手に馴染む。本当に良い剣だった。


「いやいやおめえ! どこで習ったんだその剣技!?」


 興奮した様子でアウェンが詰め寄ってくる。

 そうか。これ一応王宮の剣技……いや違うな。これはもうほとんど独学だったはずだ。

 その事を正直に伝えることにする。


「おいおいまじか……」

「いやぁ……奮発して持ってきたつもりだったけど、こんなんで良かったかい……? 値は張るけどもうちょっといいもんも……」

「いやいや。すごくいい剣をありがとう」

「そうかい……」


 やっぱりあんまり王宮の事に触れないように気をつけたほうが良いことはわかった。

 わりとボロを出しそうだ。


「独学で……妙な剣技だと思ったがあんな剣さばき……素振りだけで段違いだってわかることがあるんだな……」

「大げさだなー」

「大げさなことあるか! ……いやまぁいい。とにかくこれだけ揃えばまぁ、見た目でバカにされることもねえだろ」

「なるほど。訓練校に向かうってわけかい」


 店員のお姉さんも会話に入る。


「だったら気をつけな。この時期は貴族の編入も多いからねえ」


 貴族か。帝国は実力主義ではあるが貴族制度もある。世襲制になっている分やはり、家によっては十分な実力がないままえらくなってしまうものも存在することは知っていた。


「訓練校にくる貴族なんざ落ちこぼれだろう?」

「ところがそうでもないのさ。訓練校の成績はその後に影響するからね」

「影響……?」


 どうも訓練校は貴族間でも注目されているらしい。

 訓練校の成績いかんで昇進も大臣といった重鎮への抜擢も見据えてもらえるという。帝国は実力主義。とはいえその実力を可視化できる部分は少なく、訓練校は貴重な実力を可視化する仕組みとなっているということだった。


「まあこいつなら大丈夫だろうよ」

「違いないねえ……」


 二人がなにか言っているようだったが、貴族の相手はある意味一番慣れてる分野だ。

 何人も暗殺したし……いや違う。対応したしね。

 これから始まる訓練校での生活に思いを馳せながら、武器屋を後にした。

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