第43話 動員

 グリードがロベルト邸へと再び侵入するのとほぼ同時刻。


 トルカン西部の住宅地を南北に延びる通りでは、ロベルトの部下たちが着々と、仇であるグリード宅に突入する算段を立てていた。


 算段とはいっても、その場にいる皆で集まってということはなく、大半を占める下っ端の男たちは、離れた位置で指示待ちをしている程度であり、数名の黒服たちが主だって計画を詰めているといった具合である。


 そのただならぬ気配に、近隣に暮らす住人たちも、通りから姿を消していき、最後には通りにいるほとんどが、ロベルトの部下という状況になっていた。


 そして、いよいよ作戦を決行しようという時。


 一人の男が、作戦の指揮を執ろうとする黒服たちのグループへと近づいていった。


 すると、黒服の一人がその気配を察してか、男の方を振り向く。


「おい、部外者を近づけるなって言って……マルクか?」


 部外者を近づけたことに、半ば声を荒らげていた黒服であったが、その人物がマルクであるとわかるなり、極限まで高めていた警戒を解き、幾分気を抜いた声へと変化させる。


 その様子に、マルク本人も軽く笑い、親しげに続ける。


「あぁ、何やら面白そうなことやってるじゃないか。よかったら俺も交ぜてくれよ」


 馴れ馴れしく話しかけてくるマルクに対し、黒服は眉をひそめ、いぶかしげな顔つきで答える。


「ダンのアニキが、グリードとかいう輩とやり合ったらしくてな。これからそいつの家に報復に出向くところだ。人数が増えるに越したことはないし、俺たちもお前の参加にはやぶさかじゃあないが、見たところ、体調は万全といったようには全然見えないが、大丈夫なのか?」


 黒服の視線は、包帯が巻かれ、固く固定された、まだ銃弾の傷が癒えていない、マルクの脚へと向けられていた。


 それを察してか、マルクはやや強引にまくしたてる。


「……これか? 大丈夫だ、麻酔とかが効いてるみたいでな、痛みも全然感じないんだ。まぁ、医者からはあんまり体重を掛けたり無理はするなとは言われたが、ついて行く分には構わないだろ? 迷惑はかけねぇよ」


 そう言って、マルクはじっと黒服の目を見る。


 マルクの向けた、そのあまりにも曇りない眼に、黒服は脳内で悩みながらも、数秒ほどうなった後、一つ、問いかけた。


「……言っておくが、お前が襲われても俺たちは助けることはない。それは承知だろうが、そんな満足に動けない状態で首を突っ込む理由はなんだ?」


「俺のプライドの問題だよ。俺はあいつにコケにされた。だから、やり返す、それだけだ」


 マルクの回答に、黒服はしばしの沈黙を挟んだ後、同胞たちに一旦目をくべ、そして改めてマルクに向き直り、ようやく答える。


「――いいだろう。好きにするといい。ただ、俺たちはボスの命令で動いている。そのことを忘れるなよ」


「ははっ、わかってるよ。感謝するぜ」


「……お前ら、待機は終わりだ。行くぞ」


 黒服の低く、通る声に反応して、それまで好き勝手行動していた下っ端の男たちがぞろぞろと集まってくる。


 そして、大所帯を率いながらマルクと黒服たちは、グリードが入れ違いにロベルト邸に進入しているなどとは知ることもなく、グリード宅へと向かって侵攻を始めるのであった。

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