第40話 敵視
「これは……何だ、この有り様はっ⁉」
視察を終えて帰宅した邸宅の主――ロベルトは、銃撃を受け、通路に倒れ、伏せっている部下たちの惨状に驚きの声を上げ、呆然と立ち尽くす。
そんな時間が数秒ほど経過した後、ロベルトはハッと我に返ると、すぐさま周囲を見回し、生き残った部下がいないか、屋敷全体に響くような声で、呼びかけを行う。
「おいっ、誰かいないのかっ! 誰にやられたっ⁉ 犯人はどいつだっ!」
ロベルトの怒りを含んだ声が、響いては虚しく消えていく。
その言葉に、視察に引き連れられていった部下たちも、何一つ提言することもできず、ただ後方に控えて哀しそうな表情を浮かべるばかりであった。
そんな中、ロベルトは自らの耳に、どこからか漂ってきた、応答に応える声らしき音を聞き取った。
「この声は……おい、大丈夫か、何があった⁉」
まるでその現場へと通じている糸を手繰っていくかのように、ロベルトは血塗られた通路を奥へ奥へと進んでいき、ダンの控える部屋へと向かっていく。
通路に並んだ部下の肢体と、放り出された腕や脚。
そして、その隙間を埋めるように顔をのぞかせている床に広がっている、毒々しい血溜まり。
それらを一切気に掛けることなく、ロベルトはズカズカと足を進め、ダンの部屋の敷居をまたいだ。
「――おぉ、生きてたか。誰にやられた?」
ロベルトは部屋の最奥にて、何とか上体を起こそうとしているダンの姿を確認するなり、すぐ側まで駆け寄り、その身体を支える。
すると、ダンはボスの顔を認識してか、自らの身に起こった出来事を話し始めた。
「すいません……やられました……グリードという、何でも屋の男です……」
「何でも屋の男……というと、あの宝石狂か。だが、何故俺たちにケンカを売るようなマネを……」
「ボス……ヤツの目当ては、恐らく権利書です。きっと、取り戻しに――」
「――カフォットからの依頼ということか。それで、権利書はどうした?」
「……わかりません。もし探られていなければ、まだ、一階の隠し金庫に……」
「隠し金庫だな……おいっ、お前ら、隠し金庫の中を調べろ! 権利書はあるか!」
ロベルトは顔を部屋の外へと向け、大声で部屋の外に控えている部下へと指示を伝える。
「はいっ、ただいま――」
歯切れのよい返事の後、部下たちの騒々しい足音が遠ざかっていく。
「どうだ、動けそうか? ……大丈夫だ、マルクみたいに自分からふっかけてったケンカならともかく、お前は立派に組織を守ろうとした。仇は絶対に俺がとってやる」
「ありがとう……ございます。不甲斐ない部下で、すいません……どうやら、骨がいっちゃってるみたいです」
「わかった、お前はゆっくり休んで、次の仕事からしっかり頑張ってくれ。頼りにしているからな」
「ボス……身に余る言葉、感謝します」
そう口にして、ダンは弱弱しくも、喜びの感情を表に出し、自らのボスへ伝えようとする。
ロベルトも、その意思を受け取ってか、目元をわずかに潤ませる。
そんな中、再び騒がしい足音が部屋へと近づき、ひっ迫した部下の声が、弓矢のようにロベルトの耳へと飛び込んできた。
「大変です、ボス! 権利書が、ありませんっ! 盗まれてます!」
「何っ⁉ あの野郎が……許さねぇ、完全に俺らを敵に回したことを後悔させてやる」
ロベルトは、部下の報告に、ダンを一旦壁際に寄り掛からせた後、一同に向けて、激しい声で檄を飛ばした。
「お前ら、宝石狂の家に向かえ! 周囲の奴らも集めて構わん! 何が何でも、あの野郎を仕留めろ! いいなっ!」
「はい、ボスっ!」
怒りの感情を前面に押し出したロベルトの言葉に、部下の男たちは蜘蛛の子を散らしたかのように一斉に解散し、グリード宅襲撃へ向けての準備に動き始めたのであった。
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