第22話 トルカンの壁

 突発的に訪れた災難を何とか回避したグリードとコニールは、そのままの足取りで集落とその周辺を確認して回り、自分たちがやってきた側とはちょうど反対側の、集落を囲う柵の側に停められていた、数頭の馬の中から、より毛並みの良い一頭を選ぶと、そのまま騎乗して、トルカンの町へと向かっていた。


 無論、コニールには乗馬の経験もなかったため、グリードの後ろにしがみついて移動をするということになったのだが、ここ数刻の出来事でグリードに対してある程度の信頼は築けていたらしく、さして大きな問題もなくトルカン近郊まで到達することができていた。


 ただ、その移動距離は決して短いとはいえず、集落を出る時にはまだ高く昇っていた太陽も、トルカンの町が目視できる頃にはすっかり沈んでおり、周囲は暗闇に包まれ、空には星が瞬いていた。


 そんな中、グリードとコニールの二人は、夜間の走行は危険とのことから、それまで乗ってきた相棒ともいえる馬を乗り捨て、トルカンの町から漏れ出る照明の光を頼りに、町へと向かって歩き続けていた。


 その道中、無言で歩き続けるグリードの後ろに着いて歩きながら、コニールは抱いた疑問をためらうことなく投げかける。


「ねぇ、グリード。この辺りなら主要な街道に出た方がいいんじゃないの? ただでさえトルカンは高い外壁で覆われてるわけなんだしさ?」


 しかしながら、コニールからの提案を、グリードは歩みを止めることなく、即否定する。


「――だからこそ、だ。お前も見ただろ、あのいかにもな連中たちを。あいつらが俺たちを見つけたといって、懇切丁寧にボスに連絡をするとは思えない。だとすると、まだ警戒して俺たちを探す輩が、この辺に居る可能性がある」


「それは……そうかも。一応、考えてるんだ、そういうこと」


 感心した様子のコニールの声に、グリードは一瞬足を止め、後ろを歩く小柄な少女を首だけで振り返り、横目に確認するが、すぐに前を向き、続けた。


「まぁな。それに、あのマルクとかいう男とは別に、マフィアの連中が警戒をしていないとも限らないからな。特に俺たちは列車に乗っていた身だ。万が一ということもあるし、細心の注意を払っておくに越したことはないだろう」


「でも、それはさすがに考えすぎじゃない? マフィアっていっても、そこまで大それたことはできるなんて思えないのだけど」


「……表立っては、な。ほら、あれを見てみろ」


 グリードは足を止めると、物陰に身をひそめながら、いつの間にか到着していたトルカンの北口を指さす。


 舗装された道路と灰色の塀の終わりを示すように立っている二本の柱で分断しただけの入口であったが、日暮れという時間帯のせいか、そこに兵士や警官といった警護をする人物の姿はなく、代わりに、柱に取り付けられた松明の灯火の下、明らかに質の違う男どもが2名ほど、幾分退屈そうにはしているが、それでも目を外すことなく様子をうかがっている様子がはっきりと見られた。


「そんな……一体どうしたら……」


 ここまでの疲れもあってか、コニールから弱気な声が漏れる。


 そんな彼女を気遣ってか、はたまた元より気になどしてないのか、グリードは迷いない足取りで、来た道を戻り、灰色の塀に沿って町の西口を目指して歩き始める。


「あっ、ちょっと!」


 声を抑えながら、コニールはグリードに呼び掛けるも、グリードはその言葉に耳を貸すことはなく、コニールは若干不服そうな顔をしながらも、その背中を追った。

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