第18話 真相
カラッタ共和国第二の都市、トルカン。
近年、人々の流入が増え、経済的に急激に成長してきている、比較的温暖な都市である。
そういった情勢もあり、街を歩く人々の数も増えてはきているものの、土地は無制限とは言えず、住宅もより多くの人が暮らすことができるよう、ワンルームのマンションが増えたりという、生活の変化も目まぐるしい。
そんな中、邸宅と呼べるような巨大な敷地と建物を有する者は、トルカンの中でも有数の権力者と呼んで差し支えない。
そして、その条件に該当する、真っ白な邸宅がトルカン西部に存在していた。
所有者の名前は、ロベルト・バレス――その筋では有名なマフィアの首領である。
トルカンがまだ小さな一都市である時代より、銃火器と酒類の事業を軸に現在の地位まで成り上がった逸話は、業界でも有名な話であった。
「――それで、例のブツは手に入ったのか?」
広い窓と白い柱と壁、そして磨かれた床。
差し込んでくる日光を最大まで活用する造りとなっているスイートルームの中央で、赤い絨毯の上、スーツ姿の部下数人に囲まれながら、一人掛けのソファにどっしりと腰を掛け、ロベルトは自前の葡萄酒の入ったグラスを片手に、眼前で跪き頭を垂らしている部下へと尋ねる。
「はい、顧問の方にも見てもらいましたが、本物で間違いないだろうとの回答をいただきました」
「そうか。なら結構……数日中に手続きを済ませるから、それまで厳重に保管をしておけ」
暖色系の派手な柄をした半袖シャツに半ズボンという、マフィアと関連付けるにはいささかラフすぎる出で立ちのロベルトであったが、指示を出す時の声と眼光は相手の喉元へナイフを突きつけるかのようであった。
また、それを目の当たりにしている部下もまた、感情を表に出さないよう、低く抑揚のない声で端的な返事をする。
「わかりました。他の物品はいかがしましょうか?」
「知らん。俺が興味あるのは、あの鉱山の権利書だけだ。他の物は好きにするといい。ただし、足が付くような真似だけはするんじゃねぇぞ?」
「わかりました。では、指示通りに」
「あぁ、頼んだぞ」
報告が済むと同時に、ロベルトの前に跪いていた部下はすっくと立ち上がり、足早にスイートルームを後にする。
そして、その背中が大きな両開きの扉の向こうへと消えるのを待たず、ロベルトは手にしたグラスに口をつける。
外から差し込む陽光がグラスに当たり、葡萄酒の色をより鮮やかに引き立てると、香りまで芳醇に感じられるようで、ロベルトは口内で転がした葡萄酒を嚥下すると、上機嫌な笑いを上げた。
「カフォットの野郎が権利書を譲渡するという噂を聞いた時は、どうなるものかと思ったが、杞憂だったな。これであの鉱山をウチの物にできたら、安定して銃器を製造することができるようになる……そうすれば、俺の天下だ」
そう口にしたロベルトは、手にしたグラスを軽く掲げる。
グラスの表面には、自分の顔が反射されて映っていたが、ロベルの瞳には、その顔に重なって、近い将来、トルカンの街を陰より支配する、自分自身の姿が映って見えていたのであった。
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