第16話 離脱

「あの……どうして、近くに馬が停められているって、わかったんですか? なんだか、最初からわかっていたっていう感じでしたけど」


 軽快に走る馬の背中に跨りながら、騎手の背中にしっかりと密着し、腰に腕を回して自らを固定しながら、少女は手綱を握るグリードへと問いかけた。


 現在二人が馬にて移動を試みている、通称『悪魔の手型』とも呼ばれる乾燥地帯は、その土地柄、目立った人工物もないため、遮蔽物がないことをいいことに、気まぐれに吹きつける強風が、巻き上がった土埃ごと、通過しようとする人々へと叩きつけることで有名であった。


 そのため、この地を通過する者たちにとっては、なるべく足を止めず、時間をかけずに一気に渡りきることが常識として認知されていた。


 そんな中、グリードは少女の問いに答える為か、わずかに馬の速度を落とし、多少下方からの衝撃が緩やかになったところで口を開いた。


「簡単な推測だ。あのスーツの若造が黒服どもの仲間だってわかったからな。あの様子だと仕事を終えたら皆で列車を離れるつもりだったのだろうし、だとすると近くに逃走用の足を用意しているだろうってことは容易に想像がつく」


 淡々とした口調で話すグリードであったが、その声は決して間延びしたものではなく、真剣みを帯びており、列車内で横になっていた時とは別人のようであった。


 しかし、それを指摘できるほど、二人の仲は親密ではなく、結局少女は人が変わったかのようなグリードに対しての質問をぐっと飲み込み、代わりにこれからの行き先について尋ねた。


「私たち、今どこに向かってるんですか?」


「とりあえず、西の方に小さな町がある。今は一旦、そこに身を落ち着けようと思っているのだが、何か反論はあるか?」


 前方をじっと見つめながら放たれたグリードの言葉に、少女は黙って首を横に振った。


 言葉にはしなかったが、グリード自身も背中に加わる感触からそれを読み取ったのか、それ以上言及はしなかった。


 そして、再び訪れる無言の時間。


 風の音と、馬の足音、そして鞍から伝わる振動に、わずかに吹き付ける乾いた空気と砂の粒。


 それらを振り払おうとするように、グリードは再び馬の速度を上げる。


「……その、仕事として受けてくれたのは嬉しいんですけど、心当たりとか、あるんですか?」


 長い沈黙の後、沈黙に耐えられなくなってか、少女は再びグリードへと問いかける。


 対するグリードは、今度は馬の速度を落とすことなく、先ほどよりもやや大きめの声で少女へと回答を伝えた。


「あぁ、銃の型が正規のものじゃなかったからな。あの形式のものを使ってるってことは、十中八九、トルカンに潜んでるマフィアに違いないだろうな」


「マフィア……」


 そうつぶやいたのを最後に、何かを思い起こそうとするかのように、少女は黙り込む。


「全力で行くぞ? 落ちないように、きちんとつかまっておけよ」


 グリードは一瞬だけ加速を緩め、背後の少女に一言注意を促すと、やや前傾になり再度馬を加速させた。


 腰に回された少女の手に力が入る。


 真正面からぶつかってくる砂埃に、グリードは顔をしかめ、目を限界まで細め、なんとか耐える。


 そのまましばしの間、走り続け、彼らの影が少しばかり背を伸ばした頃、グリードは緩やかに速度を落とし、そしてやや高台になっている箇所で、ブレーキをかけた。


「――着いたぞ」


 グリードの声に、それまで背中にぴったりと顔をつけていた少女が、脇からひょこっと顔をのぞかせる。


 少女の目に映ったのは、周囲を木製の柵で囲われただけの、敷地内には街道も舗装されていない、石造りと木造の建物が無造作に並んでいるだけの、まさに集落と呼べる地域であった。

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