第15話 アフターケア
「よし、そうと決まれば行動は早い方がいい。すぐに出発するが、それでいいか?」
グリードは、少女からネックレスを受け取ると、どこからともなく純白のハンカチを取り出し、間に挟んでジャケットのポケットへと仕舞うと、すっくと立ち上がる。
次いで、少女もゆっくりと立ち上がるが、まだ状況を把握しきれていないらしく、半ばグリードの傀儡にでもなったかのように、言われるがまま車両外へ向けて、若干ふらつきながらも歩き始めた。
「――おっと」
グリードもまた、少女の後ろに着いて歩きだそうとするが、ふと思い出したように少女の元を離れると、自らが元々腰を据えていた座席へと戻り、すっかり顔が青くなっている怪我人――マルクへ、胸の上を目がけて奪った拳銃を放った。
「一応、返しておく。まぁ、二度と使うことがあるかはわからないがな」
それだけ言い残すと、グリードは返事もままならないマルクに背を向け、少女の元へと戻っていく。
そして、奇異の視線を周りの乗客から向けられる中、少女と褐色に身を包んだ男の二人組が別車両へと通じるドアを開けようかという瞬間のことだった。
それまでじっと目立たぬよう潜んでいた、先ほど添乗員を呼びに行こうと席を立った男性が、マルクの元へと駆け寄ると、グリードが放っておいた拳銃を手に取り、二人の背中に向け、腕を真っ直ぐに伸ばし、構える。
一瞬にして、広がる周囲の動揺の声。
ところが、それで二人の足が止まることはなく、それどころか振り返る素振りすら見せず、まず少女が車両内から姿を消した。
「この……せめて、手を出した報いを――」
静止を求める声もなしに、男はとっさに照準を残った男――グリードへと向け、躊躇なく拳銃の引き金を引いた。
「――え?」
しかしながら、銃口から銃弾が発射されることはなく、男の口から拍子抜けした、間の抜けた声が漏れる。
瞬間、グリードはピタリと足を止め、振り返らぬまま、左手を横に伸ばすと、握っていた手を開いた。
手中から姿を現した、数発の弾薬は、バラバラと宙に舞い、数秒の空中浮遊を味わった後、床の上に転がっていく。
その光景を茫然としながら見つめる男に対し、最後までグリードは無反応を貫き、ドアの向こう側へと姿を消していったのであった。
「……まさか、あいつ、わかってたっていうのか?」
拳銃を手に立ち尽くす男の放った疑問に、答える者はいない。
それでも、男は口にせずにはいられなかった。
そうしなくては、自分が目にした、明らかに別格の存在へ対しての、畏怖ともいえる感情によって、膝から崩れ落ちてしまいそうだったからであった。
その後も、男はしばらくの間、手にした拳銃を放すことも忘れ、いまだに誰も出入りすることのない、ドアの向こう側をじっと見つめ続けていた。
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