目が好きな赤髪の成人女性
次の日。
やはりというかなんというか、私はそれが当然のように常識的に行動しているように学校をサボっていた。
正確に言うのならば、サボろうとしている最中だ。
学校に行くフリをして家を出た私は、近くの公園で親が仕事で家を出るまでの時間を潰している、なので正確の言うのならば、サボっている最中ではなく、サボろうとしている最中ということになるのだけれど、そんなことはどうでもよかった。
公園には、今私が漕いでいるブランコの他に、砂場とジャングルジムに付いている滑り台がある。
昔から疑問だったのだけれど、あのジャングルジムは本当に必要なのだろうか、滑り台を滑るのにもいちいちジャングルジムを登らなくては滑れない、滑り台を滑るだけならあれはいらないのではないだろうか、もちろん鬼ごっこなどの遊びで、上手く工夫すれば便利な物にはなるのだろうけれど、私は思うのだ、滑り台は階段と滑り台のみで構成されていて欲しいと、あの綺麗なフォルムを崩さないで欲しいと、そう思うのだ。
まぁ、そんなこともどうでもいいけれど。
そんなくだらないことに考えを巡らせていた私は、いつのまにか私の横のブランコに乗って漕いでいる赤色の髪を長く伸ばした成人女性の存在に、気がつくことができなかった。
「こんにちは」
私が成人女性に気がつくと、それに成人女性側も気がついたようで、挨拶をしてきた。
今はまだ朝の八時なのだけれど、その時もこんにちはでいいのだろうか、まぁいいのだろう。
「こんにちは」
私は返事を返す。何か特別なことをするわけでもなく私は普通な普遍的な、こんにちは、をした。
すると女性は、ブランコを漕ぐのをやめ、私の目をマジマジと覗き込んでくる。
「あなた綺麗な目、してるわね」
「そうですか?」
そんなこと今まで生きてきて、一度も言われたことがないことだった。
「うん、とても綺麗、一目惚れしちゃいそう」
「そんなにですか? 私以上に目が綺麗な人なんて、山ほどいそうなものですけれど」
「ううん、あなたの目はそんじょそこらの奴らとは違う。有名人や、無名人、お年寄りから赤ちゃんまで、全ての女の目を見てきた私にはわかる。あなたの目は綺麗よ」
何故そこまで言い切れるのか、その自信はどこから溢れているのか、そんなことはどうでもいいけれど、私は今暇をしていた、親が家を出るまでもう少しだけ時間がある。だから暇つぶしに私は、もうちょっとだけ会話をすることにした。
「お姉さん、ナンパですか? 私を口説いてもいいことなんてありませんよ」
「んいや、ナンパじゃないよ、本心さ、あなたの目を、ブランコを漕いでいるその目を見た瞬間綺麗だなそう思ってしまったから、それを思わず呟いてしまった、ただそれだけ」
「今のセリフ、ナンパをしているようにしか思えませんでしたけれど」
「まぁそれも間違いじゃないかもしれないね、さっき言っただろう? 一目惚れをするぐらいあなたの目は綺麗だって」
「それは、私に恋をしていると捉えていいのですか?」
「もちろん捉えてもらって構わないよ、それでもしあなたが、私と付き合いたいと言うのならば、私は即座に首を縦に振ろう」
「もちろん、私はそんなこと言いませんけれど」
「それは残念、あなたのことを好きというのは、嘘じゃないのに」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
「そう、まぁそれでもいいよ、ただ一つだけ言わせて欲しい。あなたの目が綺麗というのは本当だから」
赤髪の女性は、それが本当に大事なことのように、私に語りかけた。
自分の目が綺麗だからなんだというのだろう、自分から自分を客観視するなんてことは出来ないし、もちろん鏡でも使えと言われかもしれないけれど、鏡を使ったところであれは、自分を鏡に投影しているだけで、本当の意味での客観視とは私には思えない。
鏡は、自分自身の自分で見える場所のみを映し出す物だ。
自分が知らない自分は、鏡を使ったとしても見ることはできない。
だから、自分の目が綺麗だとしてもそれを私自身が確認することはできないのだから、そんなことに意味なんてない。
それは全て、どうでもいいことだ。
どこか伏線じみた言い方をこの赤髪の女性はしたけれど、これは多分伏線ではなく、ただの雑談。女性の言葉は、何かに隠れた線ではなく、そもそも線でさえなく、点だ。今この場所に打たれた点、それ以上広がることはなく、それ以上縮むこともない、点。
その点から、私は一歩足を外に出した。
「そんなこと、私はどうでもいいです」
私は私の目前でブランコをもう一度漕ぎ始めた女性に、愛想笑いを浮かべる。
「そう、どうでもいいか、そうだなどうでもよかったな、それじゃあ、本当に意味のあることを言ってやる」
漕ぎ始めたブランコを、すぐさま止め、赤髪の女性は真剣な眼差しでこちらを向いた。
「今暇? お茶でもしない?」
赤髪の女性は、そんなナンパみたいなことを、さぞも真剣そうに行うのだった。
そんな赤髪の女性に私は、もう一度言ってやる。
「どうでもいいです」
赤髪の女性は笑っていた。
私は、愛想笑いを浮かべていた。
どちらも笑顔だった。
その後、いつのまにかいなくなっていた赤髪の女性のことを
『さっき変な人に会った』
氷雨からの返信は、すぐにきた。今は授業中のはずなのだけれど、大丈夫なのだろうか。まぁそんな些細なことどうでもいい。
『変な人?』
『うん、すっごい変な人。赤髪の女性で多分成人してるはず、その人がさ』──。
そんな感じで、事のあらましを伝えると、こんな返信が返ってきた。
『確かに変な人かも、それにちょっと不気味だし』
『不気味か、確かに不気味かもな、いつのまにかいなくなってたし』
『なんかその人、またどこかで会いそうな気がする』
『(笑)私もなんかそんな気がする、多分次会った時もしも氷雨なんかが近くにいたら、あの人はきっと、氷雨にあなた目が綺麗だねなんていうよ』
『
『でしょ? 多分あの人は、本気で女の人たぶらかす魔女だよきっと』
『小悪魔って方が可愛くない?』
『あの人に小悪魔は、似合わないよ、どちらかと言えば、悪魔だねあの人は』
『魔女で悪魔の、赤髪の女性か、そんな人と喋って、いい暇つぶしにはなったの?』
『とてもいい暇つぶしだったよ、それと同時にとても、どうでもいい暇つぶしにもなったけれどね』
『そ、それならよかった。あーやばいそろそろ先生に見つかりそうだから、ここで』
『うん、了解』
これで、氷雨とのやりとりは終了、先生に見つかるのは、絶対やめた方がいい多分この時間の授業は、全生徒に厳しい先生アンケートをとったとして、圧倒的投票数で一位を取るあの人のはずだ。もし見つかれば、想像を絶する罰が待っている事だろう。まぁその人は、それと同時に、好きな先生のアンケートでも一位を取るだろうけれど。
スマホをの電話を切り、ブランコを降りた私は、ジャングルジムに足をかけた。ジャングルジムはいらないとは言ったけれど、滑り台は滑りたい気分だった。
ジャングルジムを登り切り、私は、滑り台を滑る。
特に感想はない──ないけれど、一つ言えるのは、やっぱりジャングルジムはいらないということだった。
滑り台を滑り終えた私は、数カ所のあざをさすりながら、誰もいないであろう我が家へ足を向かわせた。
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