第10話 リハビリしよう
フェレの食事が落ち着いて。
「……聞きたいことが……あるんだけど」
「なんだ、フェレ?」
「……私が離脱しちゃった後、どうやって食人鬼を倒したの?」
「ああ。ほら、俺たち代わりばんこに足首を後ろから斬りつけたよな」
「……うん」
「あそこにゃ人間で言えばアキレス腱があるのさ。それが切れたので鬼が転んで、立ち直るより前に俺が乗っかって首の後ろからグサって寸法だな。普通なら切れる腱じゃないが、きっかけになる切れ目をしこたま入れたところに、こっちが逃げるふりをしてダッシュさせて強い力をかけさせりゃ、流石にイカれるだろうと、な」
「……なんか、回りくどい戦い方だったんだね」
「身長差があるから、まともに打ちかかっても攻撃が急所に当たらないからな。とにかく転ばせないと、ってとこがポイントだったわけさ。確かに回りくどいけどな」
「……ごめん。悪く言ったつもりはなかった。死なないで済んだのはファリドのおかげ。感謝してる」
「とっさにこの方法しか思いつかなかっただけだけどな」
フェレは、食後のお茶に目を落として何か考えている。
「……鬼が出てくるなんて予想外だったのに、瞬間で対応を考えられるのはすごい。私は何も考えられなかった。結局倒したのはファリドだったし、ぜんぜん貢献できなかった……」
急にしょげ始めるフェレにファリドはあわてる。
「ちょっと待て。あの戦法は動きのいい複数の戦士が前後から相手を挟み込んで、何度も足首に切りつけて十分深く切り込みを入れる前提で、初めてできるやり方なんだ。フェレの運動能力と身体強化がなかったら無理だったんだぜ。少なくとも俺一人なら、今頃死んでるわ」
「……ホントかな……私は、役に立ったのかな?」
「俺ら二人のどちらがいなくても勝てなかったさ。間違いなく」
「……」
また頰を桜色に染めるフェレ。わかりやすい。
―――よっぽどネガティヴに扱われてたのかなあ。俺くらいはほめてやらんとなあ。
ますます保護者気分になってくるファリドだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから一週間ちょっとは、稼ぎに出られなかった。
筋肉の痛みは二日ほどで引いたものの、まともな身のこなしができるまでにさらに三日、その後「とにかく打ち合わない」ことを徹底的に叩き込む鍛錬にさらに三日。
フェレがリハビリに専念していた五日ほどの間、ファリドは……短い鍛錬の他は、本を読んでいた。
「……面白い? どんな物語?」
「物語じゃなくて、実用書だな。魔物の生息地域とか弱点とかな。『軍師』なんて肩書を付けられると、それは知りませんじゃ通らないから、冒険者として必要になるいろんな情報は、徹底的に頭に入れておかないとなあ」
「……大変なんだ」
「もともと本読むのは好きだから苦痛じゃないよ。本当は歴史とか科学の本が好きなんだが、こいつらは冒険者稼業にすぐ役立つもんじゃないから、ギルドの図書室にゃ置いてないんだわ。買うと高いしなあ・・」
「……どこで歴史の本を読んだの?」
「子供の頃は副都にいたからな。副都の中央図書館は、稀覯本以外はだれでも読めるようになってるんだ」
「……副都か」
あまり古い記憶に触れられたくない雰囲気を感じ取ったのか、フェレが不器用に会話をつないでいく。
「……私は……役に立ちそうな本を読むと、寝てしまう。実家にあった勇者の物語は時間を忘れて読んだ記憶があるけど……」
―――魔女ってのは、魔術書の研究に勤しむのが好きなもんだと思っていたんだがなあ。
「それでいいんだ、無理することはないさ。どうせなら今晩よく眠れるように、この大陸地理の本でも、読んでみるか?」
「……試してみる」
本当に、本を読み始めて十分もたつと、着替えもせず寝てしまったフェレだった。
―――やっぱり残念な魔女だ、こいつ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「身体も動くようになったみたいだし、そろそろ仕事を再開しないとな」
「……うん」
二人は夕食のテーブルについている。再開した訓練ではフェレもまずまずのシャムシールさばきを見せ、ファリドも満足げだ。フェレは今晩もファリドの財布で、肉に寄ったメニューをがっついて満腹した後、上機嫌でお茶のカップを両手持ちして飲んでいる。
「フェレの刀術に不安がなくなって来たから、狩りじゃなく『依頼』を受けていくぞ」
「……討伐とか?」
「それもあるが、実質戦士二人の俺たちパーティーには討伐できる相手は限られるな。魔窟の探索も、魔術の助けが必要だし」
「……すると?」
「一般的に言うと、難度の割に美味しい依頼は護衛。特に女性メンバー入りのパーティーだと、需要が多いな。女性の旅の場合、護衛が男だけだと、やはり怖いものらしいからな」
「……じゃ、次は護衛を?」
「そういう仕事をうけるためには、まずフェレにやってもらわんといけないことがあるけどな」
「……ん?」
「その、もっさりボサボサした格好を、なんとかすることさ」
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