第15話:天罰

「うごっぐぅふっ」


「ギャアギャアアアアア!

 助けて、たすけて、助けてください!

 ゆるして、ゆるして、許してください!」


 ビックリして跳び起きてしまうほどの絶叫と映像が、私の心の中に映し出され、思わず心臓がドクンドクンと大きく激しく打ち鳴らされます。

 謀略を自信満々で語っていた国王の腹から、魔獣の手がいきなり飛び出してきて、そこら中に鮮血がまき散らされたのですから、驚いて当然だと思うのです。

 魔獣が隣国まで遠征して天罰を下すとは思いもしませんでした。


 誘いをかけられていた公爵が、腰を抜かしてその場にへたり込んでいます。

 尾籠な話ですが、その場に黄色いシミが広がっていますので、情けなくも失禁してしまったんでしょう。

 その場にいないのに臭いを感じてしまうほど臨場感があります。

 そんな臨場感など不要なのに、声も映像も不要なのに、なくなってくれません。


「おのれ、よくも陛下を!」


 魔獣に殺されたとは考えもせず、国王の護衛についていた騎士達が、公爵が国王を殺したものと思い込み、剣を抜いて公爵に襲いかかります。


「私じゃない、私じゃない、私じゃないんだ!。

 てんばつ、これはてんば、うぎゃああああああ!」


 ろくに言い訳もできずに、公爵は滅多斬りにされ、見るも無残な姿で絶命しましたが、こんな凄惨な現場など見たくはないと念じたのに、引き続き見せられます。

 指示を与えるべき国王が重体で口もきけず、国王の侍医が呼ばれて魔法薬が処方されましたが、国王が指示できない間に王子の一人が功を焦り、この国に逃げて来ていた、ドナレイル王国の貴族達を皆殺しにしてしまいました。


 どうも、これも私への忠誠心というか愛情というか、私を辺境に追放した王侯貴族を苦しめる天罰の一環のようです。

 魔獣達は、この国の王侯貴族を地の果てまで追いかけて、できる限り惨めな死を迎えさせようとしているようです。

 私はもういいと何度も口にしていますし、心でも念じているのですが、全然魔獣達に伝わりません。


 それとも、私の本心は、今も王侯貴族を激しく恨んでいるのでしょうか?

 私の本性は、それほど執念深いのでしょうか?

 自分としては、もっとさっぱりとした性格だと思っていたのですが。

 もしそうだとしたら、よほど気を付けないと、ちょっと腹を立てただけで、魔獣が無差別殺人に走るかもしれません。


「聖女様、大猪の肉が焼けたよ、血の滴る焼きたての焼き肉だよ。

 早く来てくれないとみんなが食べられないよ!」


 なんという最悪のタイミングなのでしょうか。

 あのような現場を見た直後に、血の滴る肉を食べなければいけないなんて。

 でも、私がひと口でも食べないと、孤児も小作人も食べることができません。

 形だけでも口付けないといけませんね。

 肉を見るだけで吐きそうなのですが、これも聖女の務めだというのでしょうか。

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