第11話:刺客魔獣ちゃん

「ごめんね、身勝手なのは重々承知しているの。

 でも、独りで敵にの乗り込んでもらうような危険な事は、最初に私に寄り添ってくれた君にしかお願いできないの。

 誰のためでもなく、私のために行ってくれないかな?」


 私は本当に身勝手なお願いをしています。

 恨み辛みに囚われてしまい、寂しさと不信で壊れそうになっていた私に寄り添い、心を取り戻させてくれた魔獣ちゃんに、危険なお願いをしています。

 魔獣たちのためではなく、人間のために危険を冒してくれと頼んでいるのです。

 本当に身勝手極まりないお願いなのです。


「ミャ、ミャ、ミャ、ミャ、ミャアア、ミャ、ミャアアアアアア」


 気にするな心配するなと言ってくれる魔獣ちゃんに、涙がこぼれそうになります。

 この子なら、王侯貴族の連合軍になどに後れを取らない。

 そう心から信じているからこそ、頼んではいるのですが、危険な事には変わりありませんし、この子たちの何の利益もない事を頼んでいるのです。

 断られても当然の事なのに、何の躊躇いもなく受けてくれました。


 それどころか、詫びる私を慰めてくれるほどです。

 自分可愛さに、他の魔獣を身近に置いて、たった一人で王侯貴族連合軍五万と戦ってくれと言っているのです。

 普通に考えれば無謀な事なのですが、魔獣ちゃんは直ぐに引き受けてくれました。


 五万の王侯貴族連合軍は、今この国にいる支配者層の全てです。

 百万を少し超える人口だったこの国の民のうち、八十五万人が死ぬか他国に逃げるかしてしまいました。

 十万人が、この辺境にやって来ています。

 もう税を収奪する相手がいない王侯貴族は、他国から食糧を買う事もできなくなり、辺境から奪うしか生きていく道がないのです。


 ですが、絶対に勝てないと分かれば、辺境に攻め込んで来るのではなく、隣国に逃げ出そうとするはずです。

 下級兵士なら、全てを捨てて平民になりすまし、この辺境に逃げてくるでしょう。

 ですが、そんな真似は許しません、許してなるものですか!

 散々民をいたぶり収奪した者には、それに相応しい罰を受けてもらいます。


 それと、天罰が始まったと思っても、辺境への侵攻を諦めて、隣国への逃亡を始めると思われます。

 彼らも辺境の事は調べているはずですから、神々の教えに背いた者が激烈な天罰を受けたことは知っているはずです。

 同じ状況で指揮官が次々と殺されたら、自分たちが背神者だとという自覚があるだけに、その恐怖は想像を絶するモノになるでしょう。


「魔獣ちゃん、できるなら、罰を与えたのと同じ方法で王都の者たちを殺してね。

 そうしてくれれば、敵が早く崩壊すると思うの。

 そうなれば、魔獣ちゃんが早く帰って来れると思うわ」

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