第10話:働き者

「聖女様、この者達が聖女様の信徒となり寄進をしたいと申しています。

 どうか受け入れてやってください」


「聖女様、お願いします、どうか、どうか、信徒の端にお加えください!」

「お願いします、聖女様、私たちには幼い子供がいるんです、お助けください!」

「聖女様、我が村にも聖女様の加護をくださいませ」

「「「「「聖女様!」」」」」


 神殿長にしてやられました!

 脳筋の豪将だと思っていたので、こんな寝技のような事を仕掛けてくるとは想定外でしたが、もしかしたら孤児か難民に知恵をつけられたのかもしれません。

 でもそんな事を口にすると、神殿長を心から慕っている孤児たちに、神殿長を馬鹿にし過ぎだと怒られてしまうかもしれませんね。


 決して神殿長を馬鹿にしているわけではないのですが、全てを任しきれない不安定な所があります。

 全幅の信頼を置けない、どこか抜けたところがあるのです。

 でも、それが人間らしくて、神殿長の魅力的でもあります。

 人間臭いと言うのか、失敗するからこそ、温かみを感じられる身近な存在です。


 でもそんな抜けた所のある方ですが、他人のために惜しみなく働く方です。

 今回もそうです、私の非情な言葉を聞いて、その日のうちに動かれました。

 私の言葉を裏を見抜いて、辺境の人達を私の信徒信者にしようと動かれました。

 寄進の金額や物はごくわずかでいいのです。

 本当の聖女である私に、寄進したという事実があれば、神の加護を受けられるのですが、それもいつまで受けらるか……


 私は聖なる存在のままではないのです。

 恨み辛みを持ち、魔獣を引き寄せ、可愛がっているのです。

 何時神々からの加護を失うか分からない身の上です。

 いえ、それどころか、私自身の身に天罰が下る可能性すらあります。

 まあ、神の善悪の基準など、人間ごときに理解できるモノではありませんから、神の教えに従っているようで、背神行為を重ねている可能性もあります。


「分かりました、安心してください、皆の持って来てくれた寄進は受け取ります。

 寄進ができない者は、一日労働奉仕をしてくれればいいです。

 行くところがない者は、今まで通り、神殿長の指示に従ってください。

 食べる物と寝るところは保証しましょう。

 ですが、心してください、神の教えに背いた者は、厳罰が下りますよ」


 多くの人が私の言葉を真剣に聞いてくれています。

 自分だけではなく、大切な家族や恋人の命がかかっているのですから、それも当然でしょう。

 特に、最後の厳罰の部分を口にすると、身なりの貧しい者たちが緊張しました。

 天罰によって、残虐な死刑を伴う多くの処罰者が出たことは、辺境中に知られているので、本当に他に行くところのない者以外は、ここに住みたくないでしょう。

 身なりの貧しい者たちは、もうどこにも行くあてのない者たちですね。


 さて、こうなったら私も覚悟を決めなくてはいけません。

 いよいよ備蓄した食糧がなくなり、収奪する民もいなくなった王侯貴族が、辺境に攻め込んできそうです。

 神の加護を当てに出来ない以上、魔獣たちに働いてもらうしかありません。

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