第二章

第12話:神聖カルラ公国

 魔獣ちゃんは身勝手な私の願いに応えてくれました。

 王都に集結していた王侯貴族連合軍を徐々に追い詰め、自壊させてくれました。

 最初は国王をはじめとする王族を残虐に殺してくれました。

 それも、王侯貴族連合軍内で広まっていた、天罰による殺し方でです。

 腹を引き裂き、内臓を引きずりだして、それが虫や小動物に喰われるか、自然と腐り時間をかけて激痛に苛まれて死ぬかです。


 腐っても王族ですし、大軍の中心にいますから、小動物に喰われる事などないので、徐々に内臓が腐る激痛に苛まれながら死んでいきます。

 一応魔法薬もあれば医師もいますので、出血を止める事も、内臓を消毒して腹腔におさめ、縫合する事も可能でした。

 でも、魔獣ちゃんの爪にある毒や菌を癒す事はできなかったのです。


 魔獣ちゃんによって王族が皆殺しになるころには、王侯貴族連合軍は半数以下の二万人になっていました。

 下級の兵士から順に、毎晩王都から逃げ出す者が続出したのです。

 誰だって天罰で地獄の苦痛を味わいながら死にたくはないのです。

 辺境に攻め込んでも、最前線で命懸けの戦いを強いられるのは下級の兵士です。

 分け与えられる略奪品も、生きていけるぎりぎりの量しかありません。

 真っ先に逃げ出すのも当然でした。


 ですが、辺境に紛れ込もうとした者は、私を慕って集まってくれた魔獣たちの餌食となりました。

 それは最初から分かっていた事ですが、少しは不安に思っていました。

 自分可愛さに慌てて私の信徒になった者を、魔獣たちが護ってくれるという確信がなかったのです。

 でも、魔獣たちはちゃんと護ってくれました。

 国外に逃げようとした下級兵士がどうなったのか、それは私にも分かりません。


 さて、王族を失った王侯貴族連合軍ですが、最初の公爵が魔獣ちゃんの爪に引き裂かれた夜に、完全に崩壊して敗走しました。

 半死半生の公爵を王都に置き去りにして、公爵家の嫡男が国外に逃げ出したのですが、それを契機に他の公爵家も急いで逃げだしたのです。

 王族を皆殺しにした後は、公爵家が狙われるのが明らかになったからです。


 後は自明の理で、公爵がいなくなれば次に狙われるのは侯爵で、侯爵がいなくなれば辺境伯になります。

 それが分かっていて、王都に留まる侯爵も辺境伯もいません。

 誰もが我先に王都から逃げ出し、国境の外、隣国に向かいました。

 彼らが生きて隣国の辿り着けたのか、私には分かりません。


 ですが、これだけは分かっています。

 わずかでも王家の血の流れを受けた者を保護した国は、ドナレイル王国の領有を主張して軍勢を侵攻させるだろうと。

 ようやく腐り果てた王侯貴族がいなくなったのに、隣国王侯貴族に支配されるのは真っ平御免です。


 だから私は公国の建国を宣言しました。

 大した抑止力にはなりませんが、聖女として神の教えを守る国を宣言したのです。

 これで無理に侵攻してくるようなら、その国は背神国となります。

 他の国がその国に侵攻する建前になるでしょう。

 国境を接するすべての国が侵略を狙ってとなれば、神聖カルラ公国領に侵攻するのは躊躇われるはずです。

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