第3話:神殿長
「はい、神殿長、使者に神罰が下されたのは本当でございます」
「では、今年も凶作になるという事か?」
「はい、間違いなく凶作になる事でございましょう」
私の返事を聞いて、神殿長が沈痛な表情を浮かべています。
この辺境は、耕作地が少なく、未開地の森の恵みで暮らしています。
耕作をしようとしても、実りの全てを獣に喰われてしまうのです。
よほど厳重な防壁や濠の中でしか、耕作することができないのです。
いえ、防壁や濠の中でも、それを超えられる獣が夜中に来て実りを喰い荒らしますから、耕作の重労働に加え、夜通し不寝番が耕作地を見廻る必要があるのです。
だから、守護神の怒りを買って実りを失っても、直接的な被害は軽微です。
ですが、森の恵みを売って買っていた穀物は手に入らなくなります。
穀物なしで、保存の難しい森の恵みだけで民が暮らしていけるかと言えば、なかなか厳しいものがあります。
しかも、土地を捨てた民が、僅かな希望にすがって辺境に集まっています。
彼らの食料まで確保するのは、事実上不可能でしょう。
ですが、彼らも座して餓死を待つ事はなく、元々の住民を襲ってでも食料を手に入れようとしますから、辺境でも殺し合いが始まるのは間違いありません。
「それは、聖女殿が王都に戻られても同じかな」
神殿長が痛ましいものを見るような、時に探るような視線を向けて話しかけてきますが、なかなかに肝の据わった男です。
流石に元は一軍を預かる将軍だっただけはありますね。
私を生贄にして、神々の怒りが収まり、凶作が避けられるのなら、私を力づくで捕まえてでも、王都に送るつもりでしょう。
ですが、眼の前にいる神殿長は脳筋の馬鹿ではない。
だから、聖女の私を無理矢理王都に送っても、逆に神々の怒りを買う事が分かっているんでしょうが、それでもわずかな希望にすがって、確認しているのでしょう。
相手がただの屑なら、返事もせずに追い返すか、私を護ってくれている魔獣に喰わせてしまうのですが、この漢を殺すと子供たちが可哀想ですからね。
仕方がありません、正確に教えてあげましょう。
「同じですよ、いえ、もっと悪い結果になるでしょう。
私が王都に行けば、今以上に惨めで苦しい立場に置かれます。
腐りきった王侯貴族どもの嬲り者にされるでしょう。
その時の守護神様の怒りは想像を絶するものがあります。
どれほどの天変地異が起こり、疫病が流行し、魔獣が跳梁跋扈する事か。
今までのような死ではなく、もっと屈辱と苦痛に満ちた死になるでしょう。
わずかな生きる希望もなく、この国に閉じ込められ、天罰を恐れて死を待つだけになりますが、神殿長は子供たちにそのような死を与えたいのですか?」
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