第4話:聖域
「聖女殿、何か救いはないのだろうか?
まったく救いがないのでは、何の罪もない子供たちが哀れ過ぎる」
子供たちを心から想う神殿長の言葉に、ちょっと心が動かされました。
普段自分では何の努力もせず、困った時だけ神頼みするような奴なら、情け容赦せずに突き放すのですが、神殿長にはそういう態度はとれません。
自分が絶食して空腹に耐えてでも、孤児たちに食物を与える神殿長を邪険に扱うようでは、私は王都の連中と同類になってしまいます。
それだけは絶対に嫌なので、助言をしてあげる事にしました。
「私はここに追いやられてからも、神々に対する祈りを続けています。
ですから、守護神様がどれほど人間に対してお怒りになられていても、私の住むところに罰が与えられる事はありません」
私の話を聞いた神殿長が、よくわからないと言った表情をしています。
分かり難い表現をして偉そうにしようとしたわけではないのですが、私の表現力に問題があるのかもしれません、もっと直接的に話しましょう。
「分かり易く言えば、私の住む家や、私が持っている畑は、天罰が下されることなく、豊かな実りが約束されているという事です。
神の御使いが護ってくれていますので、獣に荒らされることもありません。
同じ広さの畑なら、普通の三倍くらいの実りがあるでしょう」
「なんと、それは本当か?!
だが、それは聖女殿が耕した畑だけなのか、それとも私が耕した畑でもいいのか?
いや、子供たちや、小作に雇った難民たちが耕した畑でもいいのか?!」
神殿長が勢い込んでき聞いてきます。
よほど悩んでいたのでしょうが、神殿長らしいですね。
今養っている孤児だけでなく、続々と集まる難民たちまで助けたいと思い、心を悩ませていたようです。
自分の能力以上の責任を背負おうとして、自分が潰れてしまう難儀な性格です。
そんな性格だから、忠勇兼備の将軍だったのに、こんな貧しい神殿に流れ着くような最後になったのでしょう。
でも、そんな性格の神殿長が嫌いではありません。
いえ、むしろ好ましく思っていますが、同時に苛立ちもあります。
もう少し策謀陰謀を駆使する覚悟を持って欲しいものです。
本気で子供たちを護ろうと思うのなら、自分が汚れる覚悟も必要なのです。
「小作に耕させてもかまいませんよ、いえ、むしろ他の人が耕すべきでしょう。
聖女の私には、神々に祈りを捧げるという大切な役目があるのです。
耕作に時間を費やすよりは、その分祈りに時間を費やした方が、作物の実りも多くなりますからね」
私の言葉を聞いて、神殿長が慌てて出て行きましたが、どこで何をする心算なのか、少々不安がありますが、ここは余計な事を口にせず任せましょう。
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