第2話:聖女
「ああ、なんて恐ろしい事でしょう、守護神様が御怒りです。
聖女の私に冤罪を着せ、偽者の聖女を立てたくせに、今更このような言いざま。
守護神様の我慢も限界を超えてしまったようです。
今までは凶作ですんでいましたが、直接御使いに神罰を命じられたようです。
お前達は直ぐに王都に戻り、民にこの国から逃げるように伝えなさい。
さもないと、お前達もこの塵と同じように神罰を受ける事になりますよ。
ああ、待ちなさい、この塵も一緒に連れて行きなさい。
このような腐りきった汚物を私の前に置いていくと、それこそ神罰が下りますよ」
両眼を潰された王太子の手先は、護衛の兵士たちに連れて行かれました。
私が厳しく命じたので、岩床を汚した血は奇麗に清められました。
この貧しい神殿には、私を世話をしてくれる側仕えの修道女などいません。
掃除洗濯料理の全てを、自分自身でやらなければいけないのです。
汚物のような王太子の手先が流した血を、掃除するなど絶対に嫌です。
まあ、放置していったら、魔獣が奇麗に舐め清めてくれるとはおもいますが。
「カルラ殿、使者殿が両目を神罰で潰されたという事だが、本当なのか?」
私が復讐をしてくれた可愛い魔獣を撫でていると、神殿長がやってきた。
神殿長とはいっても、まずしい辺境の神殿には、大人は私と神殿長しかいない。
私が来るまでは、この貧しい神殿にいる大人は神殿長だけだった。
大人は、と断るのには理由がある、大人以外の子供はそれなりにいるからだ。
辺境の生活は厳しいので、親を亡くした子供や、親に捨てられた子が、神殿に引き取られているからだ。
これはこの国ではとても珍しい事だった。
王都の、いや、この神殿以外では、孤児の引き取りなど全くやっていない。
路地裏で飢えた孤児が倒れていても、神官や修道女は視線さえ向けない。
自分たちは飽食をしていて、食べきれない食料を塵として捨てようとも、孤児に施すような事は全くないのだ。
私が聖女として王都にいる頃は、その現実を憂いて王侯貴族に施しをするように説いていたが、それが目障りだったのだろう。
私に冤罪を着せて聖女の座から引きずり下ろし、ヴェレカー公爵家のエヴァを新たな聖女として擁立した。
だがそれが、この国に最後の一線を超えさせてしまった。
極悪非道な悪女を聖女とした事で、守護神様の逆鱗に触れてしまったのだ。
私が聖女から引きずり降ろされた年は、長雨が続く冷夏となり、収穫が三割となったのに、王侯貴族は例年通りの厳しい年貢の取り立てを行った。
自分たちの贅沢な生活を改めず、民の事など顧みなかった。
その結果が、百万人いたこの国の人口が、三十万人になるほどの大飢饉となった。
そして去年は、三十万人しか土地を耕す者がいないのに、前年と同じような冷夏で、前年の凶作から更に収穫が三割となったのに、つまり例年の一割しか収穫がないのに、例年通りの年貢を取立てた。
民はもう黙って年貢の取り立てられたりはしない。
僅かな収穫を持っていかれたら、冬を越せずに餓死するしかないのだ。
一揆を起こして王侯貴族と戦うか、僅かな収穫を持って土地を捨てて逃げるかだ。
春になった今、二年前には百万人いた人口が、十万人を切っている。
本当の聖女である私を王家に取り込まなけれな、この国は確実に滅ぶ。
なのに、私に詫びるのではなく、許してやるから妾になれだと、ふざけるな!
ああ、神殿長に返事をしなければいけませんね。
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