第23話「少年、昇級する」

 あのまま祭りへ突入し、飲めや歌へやとどんちゃん騒ぎで朝を迎えた。本当に楽しい時間だった。その後、流石に疲労困憊だったため泥の様に眠り、次に目が覚めたのは丸1日が経過した時だ。


 そして、俺たちは今現在、オークの拠点であった洞窟へとやってきていた。

 オークの残党がいたら厄介なことになる。大丈夫だとは思うが、念には念を、だ。


「これは、酷いね」

「そうだな……」


 どこかで行商人や旅人を襲ったのだろう。洞窟の一番奥には人骨と思われるものが積み重なり、大きな山となっていた。あと少し遅れていたら、マモ村の人々がこうなっていたかもしれない。間に合って本当に良かった。


 人骨に黙祷を捧げ、残った武器防具や貴金属、衣服や小物といったものすべてを葬り袋へと収納した。人骨はもうどうにもできないが、せめて残った遺留品を家族のもとへと届けてあげい。


 幸いにも、横道や隠し部屋、隠し通路などもなく、足跡からも逃げたオークはいなさそうだと結論付けて、探索は終了した。



目的のクエストは達成できたため、そろそろ町へ戻ろうとした時、問題は発生した。


「カミトさんたちもう帰っちゃうんですか?」

「ああ、いつまでもこの村にいるわけにはいかないからね」

「でも……」

「ほら、トト。イシスさんとカミトさんが困っているだろう?」


 あのトトが少し駄々っ子になっている。まあ、この姿は年相応だと思うけどね。しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。更なるステップアップを目指す必要があるからだ。


「トト、別に俺たちは会えなくなるわけじゃないんだ」

「カミトさん……」

「そうだな、トトが15歳になったら1回一緒に出掛けようか」

「ほ、本当?」


 先ほどまで落ち込んでいたトトの表情がパァッと明るくなる。うん、やっぱり笑顔の方が似合うと思うよ。


「ああ、本当だ。約束するよ」

「うん、分かった! 約束だよ? それまではカミトさんたちが守ってくれたこの村は、次は私がしっかりと守るよ!」

「えっ、俺の立場は……」

「だって、お父さんは頼りないんだもん……」

「面目ない……」


 ダリさん、強く生きてください。


「カミトさん、絶対、ぜーったいだよ‼」

「ああ」

「「カミトさん、イシスさんありがとうございました!」」


 村人全員からの見送りを受け、俺たちは町へ向かって馬を走らせた。

 マモ村の皆の笑顔が脳内に再生される。俺たちの力によってマモ村の笑顔は絶えずに続いていく。それはなんて素晴らしいことだろうか。


「やっぱり冒険者になって良かったな」

「ふふ、カミト嬉しそうだね」

「まあ、そりゃあな」


 そういうイシスだってずっと笑顔じゃないか。

 ま、俺は心が広いから指摘しないでおいてやるよ。


 ……機嫌もいいしな。



 

 冒険者ギルドへたどり着いた俺たちは、早速いつもの受付嬢の元へと向かった。


「イシスさん、カミトさんお帰りなさい。どうでしたか?」

「勿論、無事終わりましたよ」


 俺は、クエスト達成のサインを受付嬢へと提示した。


「はい、確かに確認しました。それではこちらの報酬と、8級ランクへ昇級おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


 面と向かって言われると、少しこっ恥ずかしい。でも、これで名実共に一人前の冒険者だ。


「それで、本日は素材の買取りはどうされますか?」

「あ、そのことで少し話したいことがありまして」

「はい?」


 いつものように鑑定所へと向かい魔物と遺留品を取り出した。

 ストロングオークの死体を見た時は、流石の受付嬢でも驚きを隠せないでいた。

 

 マモ村での出来事を全て話すと、受付嬢は深々と頭を下げた。


「申し訳ありません、明らかにランクオーバーの依頼を斡旋してしまいました。これは完全に私どもの落ち度です」

「いえいえ、こうして元気なんですから気にされなくても大丈夫ですよ」

「ですが……いえ、ありがとうございます。お詫びといってはなんですが、今回の素材の買取り額はこちらの利益分も上乗せさせていただきます」


 ギルドの利益分も上乗せ、それはとてもありがたい。今回の遠征で結構な金額をつぎ込んだからな。


「遺留品に関しましては、受け取り拒否されたり、持ち主が判断できない者はカミトさんたちのものとなります。わざわざお持ちいただきありがとうございました」


 受付嬢曰く、遺留品は大抵は勝手に奪ってもバレないし、そもそもそんな邪魔なものを持って探索するなんて効率も悪いため、家族の手元へ帰ることは殆どないらしい。そのため、今回持ち込んだ大量の遺留品には大変感謝された。

 

 こんな世界だ。外で死んだ場合は、肉体がそのまま家族のもとへ送り届けられることは殆どあり得ない。そのため、遺留品が唯一の家族の拠り所だ。

 自分が逆の立場なら遺留品だけでも戻ってきて欲しいと思うし、偶々俺が葬り袋なんて反則級の古代魔道具を所持していただけだ。そんな感謝されるようなことでもない。


 それに、少し後ろめたいこともある。


 魔物の買取り額の受け渡しや、遺留品の処理などは後日という事となり、本日はこれにて解散となった。



「8級……ついに8級か……」


 冒険者プレートには確かにそう記載されていた。

 受け取った瞬間も嬉しかったが、時間が経つにつれより実感が湧いてきたというか、なにか込み上げてくるものがある。

 ふとイシスの方に視線をやると、俺と同じように冒険者プレートを眺めていた。そんな俺にイシスも気が付いたのか、俺の方へ視線を向ける。


 同じような姿勢でぽけーっとする2人、どちらかとなくお互いに思わず噴き出した。


「イシス、今日は昇級祝いでもしないか?」

「そうだね、パーッとしようか」


 イシスと俺の2人で成し遂げた偉業。上級の冒険者からしたらなんてことはないのかもしれないが、今の俺たちにとっては十分すぎる戦果によって得られた昇級だ。


 偶にはこういう贅沢も悪くないだろう。

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