第17話「少年、昇級クエストを受ける」
あれから暫く、選別の森でクエストを消化し続けた俺たちはこの森に出現する8級ランク相当の魔物であれば苦も無く倒せるようになっていた。それに、葬り袋のお陰で長時間森に籠って狩りをすることが出来る。
普通の冒険者であれば、討伐した魔物の良く売れる部位だけを持ち帰り、他の部位はそのまま森に放置するというのが常だ。しかし、俺たちは討伐した魔物1体まるまる持ち帰ることが出来るし、途中で荷物が一杯になることもない。そのため、他の9級ランク冒険者たちと比べると稼ぎの効率は段違いであり、結構貯金することが出来ていた。古代魔道具様様だ。
そんな順風満帆な日々を送っていた時、受付嬢から声を掛けられた。
「カミトさん、イシスさん。そろそろ8級に昇格しませんか?」
「昇格できるのであればありがたいのですけど」
8級、それは冒険者としては一人前と認められるランクだ。俺たちの夢にも一歩近づく。断るはずも無かった。
「8級ランク昇格には魔物の討伐数もそうですが、ギルドからのクエストを達成させる必要があるのですよ」
「ギルドからのクエストですか」
なかなか8級に昇級できないと思っていたら、そんな条件があるとは思わなかった。一体どんなクエストを突き付けられるのだろうか。緊張で手が少し汗ばんできた。
「ふふふ、そんな緊張しなくても大丈夫ですよ。お願いしたいクエストはこちらです」
「えーと、『マモ村付近に出没するオークの殲滅 報酬 大銅貨5枚』ですか」
オーク、それは8級ランク相当の魔物の中でも、最も7級に近いと言われている魔物だ。それなのに、報酬が物凄く低い。
俺が言葉に詰まっているのを察したのか、受付嬢は苦笑いしながら答えた。
「いや~、正直に言うと、8級ランクへ上がるためのクエストは塩漬けになる確率が高いクエストを依頼しているんですよね。ご覧の通り報酬が安いでしょ?」
「ええ、そうですね。少し驚いていました」
「あ、でも、これも昇級に全く意味がないという訳ではないのですよ? 立派な冒険者というのは、困っている人も助けられるような人だと私共は思っているんですよ。だから、8級になる前に改めてそのことを意識してもらおうという為の措置なのですよ」
確かにこの金額であれば普通であれば、だれも依頼を受けようなんて思わないだろう。しかし、かといって放置するわけにもいかない。昇級の条件にしたら、冒険者であれば断ることなんてできないだろう。実に合理的だ。それに、弱きものを助ける……それは俺もイシスも望むところだ。
「わかりました、引き受けます」
「はい、それではお願いしますね」
受付嬢よりマモ村までの地図をもらい、俺たちはギルドを後にした。
さて、引き受けたはいいがマモ村までの距離は大分遠い。歩きでは何日かかるか分からない。となれば移動手段は限られてくる。
「イシスって馬に乗れるか?」
「馬なら昔乗ったことがあるから大丈夫だと思うよ」
この街には大銀貨3枚で馬1頭を貸出してもらうことが出来る。しかも、無事に返却出来たら大銀貨2枚と銀貨5枚は返却してもらえるらしい。つまり、よっぽどのことが無ければ実質1頭当たり銀貨5枚しかかからない。報酬には全く見合わないが、幸いにも懐には余裕がある。大銀貨1枚は8級ランクになるための必要経費だと思えばそこまで高いとも思わない。
「よし、なら今回はマモ村まで馬で行こう」
「確かにそれがいいかもしれないね」
まあ、俺は馬に乗ったこともなければ触ったことも無いんだけどね!
さっそく馬貸店へ向かい、契約書にサインしたのち2頭の馬を無事に借りることが出来た。2頭とも比較的穏やかで、思ったよりも怖くない。
「それじゃあイシス先にどうぞ」
「じゃあ、先に失礼するよ」
ふむふむ、馬に乗るときはああして、ああしたら馬が進み、あそこに衝撃を与えると走るスピードが速くなると。そして、止まるときは……なるほど、そうするんだな
「イシス、なかなか様になってるじゃん」
「それじゃあ、俺も乗るとするかな」
イシスがした時と同じ要領で馬にまたがった。
おお、視線が高くなってちょっと怖いな。でも、思っていたよりも安定している。そして、小走りはこうだったか? お、凄い。ちゃんと思い通りに動いてくれている!
「流石だな、カミトもなかなか様になってるじゃないか」
「まあな」
内心ではめちゃめちゃ安心してるけどな! いや~、本当になんとか乗れて良かったよ。流石にあの流れで乗りこなせなかったら正直恥ずかしい。
街道をイシスと並走しながら、クエストについて確認することにした。
「オークといえば、メスのオークが少ないせいで繁殖目的に女を攫うんだよな。まだ被害が出ていないといいけど」
「そうだね。それに、人肉を好むというのも質が悪いね」
オークの襲撃によって小さな村が壊滅するというのは良く耳にする話だ。
オークとは、豚の顔をした人型の魔物だ。人に似ているのは体系だけではない。奴らは罠や武器を自ら作成したり、人間から奪ったりしてそれを巧みに操る武闘系の魔物だ。魔力がないため魔法を扱えはしないが、その反面、腕力や器用さは他の魔物の中でもずば抜けている。それに厄介なことに、オークの皮膚は分厚く弾力に富んでおり、その防御力もなかなかのものだ。
「村人が森の中で狩りをしているときに偶然1匹見かけただけらしいけど、果たして本当にその1匹しかいないのかな」
「どうだろうな。はぐれ者の可能性もなくはないけど、集落が作られていたら面倒だな」
オークは集団で行動することでも有名だ。その数は少数なら2~3体、集落が作られているとなると10体以上にもなる。そんな数の相手が連携して攻めてくるとなると、なかなか厳しいものはある。
「まあ、どれにしろ遠距離から攻撃するのが無難だよな。ということで、イシスには頼りにしているよ」
「カミトからもらった伸縮重棍の出番という訳だね。でも、カミトも弓を購入したんだろう?」
「まあな、一応俺も遠距離の攻撃手段が欲しかったからな。ただ、実戦でどこまでできるかは分からないけど」
「無いよりましさ」
弓を引くことは難なくできたが、問題は命中率だ。果たして俺にどこまで出来るのか。
「まずは弓の猛特訓だな」
弓を扱う経験は全くない。しかし、逆に言えば、俺はまだまだ成長するチャンスがあるということだ。余裕があれば、村へ着いたときに練習する時間も作れるだろう。
さて、そのためにも一刻も早くマモ村に到達しないとな。
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