第8話「少年、明日に備える」
「カミト、明日はどうする?」
「そうだな。その話をする前に、1つだけ聞いておきたいことがある。イシスの冒険者としての目標はなんなんだ?」
俺の目標は今でも変わらない。立派な1級冒険者になることだ。しかし、イシスは何処まで本気で冒険者をしているのか正直分からない。実力があっても、目標が大きく乖離していればいずれ袂を分かつことになるだろう。であるならば、今のうちにこれは明確にしておいた方が良い。
「冒険者としても目標か。私の目標は弱きものを守れるくらい強い冒険者になることだね。あとは、ちょっとその過程でとある場所を探しているんだけど……。カミトの目標は何なんだい?」
「俺の目標はトップ冒険者、つまり1級冒険者だ。そして、俺も同じくとある場所を探しているんだけど」
とある場所、つまりは俺が探しているのは女神の祭壇だ。この忌々しい使い勝手のないギフトを、女神に説教して最高のギフトへ変更してもらう。それしか俺の生き残る道はない。
しかし、イシスもとある場所を探しているのか。ギフトを隠していて、何処にあるか分からない場所を探す、ということは。もしかして……。
「なあイシス、その探している場所って……」
「ちょっと待って、私もおんなじことを考えていたんだ。せーので言ってみない?」
「ああ、いいぞ。それじゃあいくぞ。せーの!」
「「女神の祭壇!」」
「ぷっ……くくく」
「あはははは」
あー、お腹が痛い。まさか、同じ場所を探していたなんてな。どうやらイシスとはそれなりに長い付き合いになりそうだ。
「カミトと私はなんだか似ているね」
「そうだな、少なくともこれからもうまくやっていけそうな気がするよ」
さて、少し仲が深まったところで明日の方針について話そう。イシスならなんとなくだが俺の言うことを理解してくれるような気がする。
「明日だけど、俺は8級ランク相当の魔物に関する知識が殆どない。だからこそ、明日は図書館に籠って8級相当の魔物について調べようと思う」
「確かに、曖昧な知識で挑戦して後れを取るなんて目も当てられないからね。人を守るためなら多少の無茶でもするべきだと思うけど、今はその時じゃないしね。今後のことを考えても、魔物についてしっかりと事前調査をすることはいいことだと思うよ」
「イシスならそう言ってくれると思ったよ」
「後は、8級ランク相当の魔物が出現する森は7級ランク相当の魔物も出没するらしいし。8球だけでなく7級相当の魔物についても調べよう」
確かにイシスの言うとおりだ。俺たちが倒す予定の魔物以外の情報も必須だ。そうじゃないと、逃げようにも、うまく逃げ切れないかもしれない。うん、イシスとパーティーを組めたことは本当に僥倖かもしれないな。
明日の方針を決めた後、食事処でイシスと別れて寝床の門前へと向かう。ここでは、俺と同じように金に余裕のない冒険者が寝泊まりしていた。そして、門から少し離れたところには井戸が置いてあり、そこで冒険者たちは水浴びをしていた。
受付嬢曰く、冒険者といえど清潔を保つことは最小限必要とされているらしい。そのためお金のない冒険者でも体をきれいにできるようにわざわざ井戸が作られているそうだ。その井戸の水を使って、俺も他の冒険者同様に体を洗う。せめて、一緒にいるイシスには不快に思われないように丁寧に磨いていった。
巨角ウサギの討伐のおかげで、懐も少しではあるが温まってきた。このままいけば、こんな生活も後もう少しで終わるはずだ。8級相当の魔物を狩れるようになったらお金に余裕が生まれるため、宿屋でしっかり寝泊まりすることができる。
城壁を背もたれにして寝ようと準備していると、1組の冒険者の姿が視界の端に止まった。彼らは朝早くに冒険に出た新人たちだ。しかし、その表情は天と地ほどの差があった。あれほど希望に溢れていた表情が、今では絶望に染まりきっている。
全身ボロボロの装備、治しきれなかったのか所々に痛々しい傷跡も残っている。なによりも『剣技の将』を授かったと言っていたあの少年と注意を促していた少女は何処へ消えたのだろうか。
事前準備を怠った者の末路、十分に受付嬢から注意されていたにも拘らず、己の力を過信しすぎた結果がこの有様だ。また、自身が慎重でも周りにすぐ流されるような者であれば、仲間に足を引っ張られて地獄へと引きずり込まれる。
誰しもが、彼らの様な運命をたどる可能性は秘めている。でも、俺は絶対こうはならない。時間はかかるかもしれないが、堅実に着実に冒険者ランクを上げていく。地に足がつく実力を手に入れるためにも、無茶な挑戦は絶対にしない。正に、急がば回れだ。
さて、明日は頭を使う作業だ。しっかり脳を休ませるためにも早めに就寝しよう。新人冒険者たちのすすり泣きを聞きつつ、俺はそのまま眠りについた。
願わくば、彼らがこれを教訓に再び立ち上がれることを祈って。諦めなければ道は開けるはずだ。それこそが、冒険者たる者の真の姿ではなかろうか。
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