第6話「少年、パーティーを組んでみた」

「パーティーですか。カミトさえ良ければ、私としては願ってもない話です」


 どうやらイシスは受付嬢の提案に乗り気のようだけど、うーん、どうしよう。相手は自分よりも実力が高そうな超絶イケメン。正直、実力も容姿も俺が足を引っ張りそうな気がするけど本気で良いのだろうか?……いや、容姿は寧ろイシスを引き立たせるのには丁度良いのかもしれない。もしや、それがイシスの目的か!?


「で、カミトはどうだろうか」


 両方の人差し指を突き合わせて俺の方を伺うイシス。うん、この顔は俺を出汁にしようという奴のする顔ではないな。というか、そんな仕草をするとかお前は乙女かよ!!

 まあ、どの道このまま一人でいても危険性だけが高まり、トップ冒険者になるまでに死んでしまうかもしれない。かといって他にパーティーを、組んでくれる相手もいないし……。ここは腹をくくるしかないか。折角だ、この機会にイシスの技術も盗んで更に実力を身に着けてやる!!


「良いですよ」

「ほ、本当か! 良かった、これからよろしく頼むよ」


 俺が承諾すると、イシスはパァッと花開いたかのような笑みを浮かべ、右手を差出した。


「ああ、よろしくお願いします」

「カミト、これから一緒にパーティーを組むんだ。敬語はなしにしてくれると嬉しいな」


 握手に応じると、少し顔を赤らめるイシス。こいついちいち仕草が可愛いな……。


「ああ、わかったよ。よろしくな、イシス」


 こうして俺達の新たな冒険者生活が始まった。



「改めて自己紹介しよう。私の名前はイシス。技能は訳あって言えないけど許してくれ。得意なのは剣だけど、それ以外にも槍や弓など武器全般はある一定以上は取り扱うことが出来るよ」

「俺はカミトだ。得意なのは短剣で体力には自信がある。俺も技能は言えないが、よろしく頼む」

「ああ、宜しく。両方前衛だけど、二人きりのパーティーだし、お互い自分の身は自分で守れると考えると悪くないかもしれないね」

「そうだな、背中を預ける相手としては最適かもしれないな」


 共に前衛なら、お互いに背中を気にせず前の敵の殲滅だけに集中できる。まあ、その為にはお互いの実力を信頼できる関係性である必要があるけどね。

 とりあえず、一人でいるよりは死亡する危険性も低くなるだろう。信頼関係に関しては、今は保留だ。


「それじゃあ今後の方向性も話し合いたいし……あ、カミトは何処の宿を使っているんだい? もしよかったら――」

「まあまあ、話し合いはこの場でも出来るだろ。わざわざ宿を同じにする理由もないさ」

「そ、そうだよね……」


野宿してるとか、恥ずかしくて言えねーよ!!

というか、なんでそんな捨てられた仔犬のような顔をするんだ?別に俺は悪くないのに罪悪感が半端ないって!!


「取り敢えず、今は明日の方針を決めて、明日の朝改めてここに集合ってことで良いか?」

「ああ、それで構わないさ」


 ここからは命に関わる話し合いだ。それが分かっているのかイシスの雰囲気も先程とは異なり、真剣な面持ちになった。


「お互いに9級に上がったことだし、さくっと8級相当の魔物を……と言いたいとこだけど、お互いの実力も分からない。だから明日はまず、巨角ウサギの討伐でお互いの実力を確かめ合った方が良いんじゃないかと俺は思うんだけど、イシスはどう思う?」

「そうだね。お互いの能力を把握しておくのはパーティーを組む上では重要だし、私もそれで問題はないと思うよ」

「それじゃあ、明日は巨角ウサギ討伐に決定ということで」


 明日は新しい挑戦をするわけでもないためか、話し合いはあっさり終わった。イシスも焦って無理をするタイプでは無さそうだから、その点は俺も安心だ。

 それじゃあそろそろ解散して、明日に備えてアイテムの補充でもするか。


「方針も決まったことだし、帰るとするか。それじゃあイシス、また明日な」

「あっ…………」


 俺が椅子から腰を浮かすと、イシスの片手が俺に向かって伸ばされた。しかし、その手は何かを掴むことなくイシスの膝へと戻される。あれは何かを言うか言わまいかを悩んでいる様子だな。これは自分に自信が無いやつに多い特徴と言える。

 やれやれ、これから一時的とはいえパーティーを組むんだ。言いたいことを言えない間柄じゃ何か致命的なミスを犯しかねないじゃないか。


「イシス、俺たちはこれからパーティーを組むんだ。いわば、俺たちは運命共同体だ。だから遠慮なんていらない。言いたいことは言ってくれて構わないし、俺も言いたいことは言わせてもらう。お互いに遠慮なくいこう」


 ……運命共同体ね。自分で言っておいてなんだが笑えるな。どうせピンチに陥ったら自分を優先するのが普通だ。イシスもそれは同じだろう。ただ、遠慮なくというのは本心だ。言葉を交わすだけで死亡率が下がるのならそれに越したことはない。


「そ、それじゃあ、親睦をかねて夕飯を一緒に食べに行くのはどうだろうか。いや、カミトが嫌ならばいいんだ。でも、折角パーティーを組んだんだし、その記念日を兼ねてというか……」


 だからその顔は辞めろって……。はぁ、仕方がないな。それに、最初は肝心だしな。


「ああ、構わないよ」

「本当かい!? あ、お勧めの食事処があるんだ!あそこの定食はなかなか美味しくてね!!」


 ちょっ、テンション! 何がそんなに嬉しいんだか……。まあ、そんな心から嬉しそうな顔をされたら悪い気はしないけど、男なんだよなぁ……。


 イシスの案内により、大通りから大きく外れた一軒の食事処へと辿り着いた。てっきりイシスの身なりからして、そこそこ値段のはるきらびやかな場所かと思ってたけど、目の前の食事処は質素な佇まいであり、料理の値段も格安だ。

 よくよく考えれば、イシスも9級冒険者に昇格したばかりだ。もしかしたら手持ちはそんなに無いのかもしれない。俺が言えた話でもないけな。財布の中身も心許ないし、安いというのは正直助かる。この値段だ、味は期待できないが、例え不味かろうがお腹に入ればどれも一緒だ。


「美味い……」

「そうだろう? 私もここはとても気に入っているんだ」


 高い食事処みたいにふんだんに調味料が使われているわけではなく、必要最小限の量で食材の味が十分に引き出されている。素朴な味ではあるが、満足のいく味であることには変わりない。


 この食事処の存在を知れただけでも、イシスと出会ったかいはあったかもしれない。



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