第5話「少年、イケメンと出会う」

 あれからひたすら巨角ウサギを狩った。なんでも角が様々な用途に使用できるらしく、また、肉も軟らかくて重宝されているとかなんとか。たった1匹で10級相当の魔物3匹分の値段が付いた。油断さえしなければ、巨角ウサギは恐れるに足りないのだ。狩らない理由はないだろう。


「カミトさんお疲れ様でした。9級ランク相当の魔物10匹討伐達成しましたので、カミトさんは9級に昇格です」

「本当ですか!?やった!」


 たかが9級、されど9級。着実に冒険者として実力を身に着けている証拠だ。


「それはいいとして、カミトさん胸の傷は大丈夫ですか?」


 受付嬢が心配そうに俺の体に視線を向ける。


「ええ、なんとか大丈夫です。びっくりしましたよ、あの巨角ウサギの突進の軌道がわずかに曲がったんですから」


 侮りがたし、巨角ウサギ。調子に乗ったとたん直ぐこれだ。幸いにも皮の胸当てが大きく抉れてはいるものの、肌は奇跡的に傷1つ無かった。結果的に無事だっただけで、下手すれば致命傷になっていたかもしれない。謙虚に生きねば……。


「軌道が曲がった……ですか。もしかしたら、その巨角ウサギは変異種かもしれないですね」

「あ、やはり変異種でしたか」

「あら、知っておいででしたか。カミトさんはよく勉強なさっていますね」

「ありがとうございます」


 変異種、それは普通の魔物と特性が少しばかり異なる魔物だ。どのようにして生まれるかは不明ではあるが、この変異種の存在を知らずに大怪我をする新人が多いらしい。この変異種の厄介さは、決まった特性が無いという点だ。例えば巨角ウサギに関していえば、今回は突進してくる際の軌道が曲がる、というような特製であったが、他にも素早さが普通の倍以上あるとか、体全体が角と同様の固さをしているとか、中には角を飛ばすという特性を持った変異種も過去にあったそうだ。


 つまり、どれだけ魔物について学んでも、この変異種という不確定要素のせいで危機に陥る可能性があるということだ。正直な所、一人で冒険を続けるのは厳しい。だからといって組んでくれそうな相手に心当たりもない……。


「ふふ、今回の新人はカミトさんもそうですけれど、優秀な人材が揃ってますね」

「いや、俺が優秀なんてとても」

「謙遜しなくて良いですよ。ギフトに頼らず、知識と技術、そして鍛え上げた己の肉体の身で魔物を倒しているのですから」


 え、そう? やっぱり俺って凄い……いやいやいや、駄目だ駄目だ。また調子に乗りそうだった。謙虚に、謙虚にいくんだ。


「俺は置いておいて、他に優秀な奴というのは?」

「そうですね…‥お、噂をすればですよ」


 そういって、受付嬢はギルドの入り口に目をやる。俺もつられて振り返る。


 金髪、イケメン、頑丈そうな全身装備、人よりも大きい巨大な剣。うん、俺こいつと仲良くなれそうな気がしない。

 金髪イケメンは、颯爽と歩いて俺の横の受付へ直行。彼が横に着た瞬間、ほんのり柑橘系の良い匂いがした。くっ、嫌いな匂いではないが、今から嫌いになりそうな匂いだ。


「お姉さん、巨角ウサギ10匹狩ってきましたよ。これで私も9級に昇格ですかね」

「あ、はい……」


 おいおいおい、受付嬢が見蕩れているとか……仕事上良くないような気がしますが?


「有望な新人って彼のことよ。彼の巨角ウサギの倒し方知っているかしら?飛んできた巨角ウサギに対して避けることもなく、剣の腹を高速に振るって返り討ちしてきた巨角ウサギの角を折るそうよ」

「え? あれって相当固いのですけど」


 短剣を振るって弾かれたときの角の感触は未だに鮮明に覚えている。アレを折るとか相当の力だ。それだけではなく真っ向から受けて、その角が届くよりも剣を振る方が早いということだ。反射神経も相当なものだろう。


「おや、私の顔に何かついていますか?」

「いや、すまない。俺と同じ新人っていうからつい気になってみてしまった」


 つい、顔をチラチラ伺ってしまったため、あちらもこちらに気が付いたようだ。まあ、折角の新人仲間だ。表面上は仲良くしようじゃないか。


「ああ、ではあなたが噂のカミトさんですか?あ、申し送れました。私はイシス――――イシスといいます」

「噂って言うのが何かは知らないけど、俺がカミトだ」


 噂ってなんだ噂って。そんな目立つようなことはしてないはずなんだが。


「いや、そのあれです。噂は噂なので気にしないほうが良いですよ」


 そういって、イシスは自分の名前以上にはぐらかそうとした。


「ふん、どうせギフト隠してソロで冒険者しているみじめな奴とでも噂されているんだろう?」


 イシスと受付嬢の顔が少し曇る。どうやら噂はドンピシャで正解したみたいだ。


「あ、いや、少なくとも私はそんなことは思っていないよ?」

「そんな嘘はつかなくて良いよ」


 別に間違いではないしな。

 

「嘘じゃない‼」

「おわっ!?」


 イシスが必死の形相で肩を掴んできた。イケメンはこんな時でも顔が整っているもんだなー……じゃない!


「いたたた、分かった。分かったから。肩痛いって!」


 力強すぎない?肩の骨が粉々に粉砕されるところだったんだけど……。

 

 俺が顔を青くしながら言うと、イシスはハッと我に返り、俺の肩から手を離した。


「そん、すまなかった。でも信じて欲しい、私は本当にカミトを馬鹿になんてしていない。だって、私もギフトを隠して冒険者しているのだから」

「えっ?」


 イシスもギフトを隠している?もしかしてイシスも同性とキスしたら強くなるっていうのじゃないだろうな……。


「あ、そうですよ!その手がありましたよ!!」


 受付嬢が急に大きな声をあげた。お陰で自然に注目が集まり、受付嬢はちょっと顔を赤くしつつ、コホンと咳払いをした。どうやら仕切り直しするらしい。


「カミトさん、ギフトを隠したままでは安心して背中を預けることが出来ないからパーティーを組んでもらいにくいことは説明しましたよね?」

「え、ええ、それはもう身に染みる程に理解してます」


 だから今はソロなわけで。


「それならば、お二方で一度パーティーを組んでみてはいかがでしょうか?どちらもソロで冒険に出られていますが、一人では限界があるでしょうし」


 え? 俺とこのイケメンが組むの? 何故? それに足手まといじゃない?


 俺が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る