第3話


 怖い。

 怖い。

 怖い。


 運動神経抜群の秀一くんに追いかけられて逃げきれるはずがない。あっという間に追いつかれて、校舎の壁に追い込まれてしまった。


 怖い。

 怒ってる。

 当たり前だ、だって私は最低だから。


 いやだ。


 勝手だって分かってるけど。


 嫌われたくない。


 面と向かって嫌いだと言われたくない。


 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌、


「勉強頑張るから!!」


 だ……?


「俺が馬鹿で嫌になったんだよな!? 頑張るから! まさやんに聞いて頑張るから! あと、カマ先にも聞くから! あ、でもカマ先体育教師だから馬鹿じゃん!!」


 怒ってる。

 思い込んでいたいた秀一くんは、怒ってなんかいなくて。捨てられた子犬みたいな顔していて。


 駄目だ。


「ええと、今度の休みも勉強して……、ああでも雪とも遊びたい!! 平日!? 平日に勉強するしかないのか、俺!!」


 私は秀一くんを欺したんだ。

 私に彼女の資格なんかない。


 別れろ。


 罪を償え。


 ちゃんと。


「雪!!」


 サヨナラしろ。


 小さな罪を。


 私が重ねた小さな罪を。


「大好きだから別れないでください!!」


「ッ、……私も大好きですぅぅうああ!!」


 ごめんなさい。


 私は最低な人間です。


 抱きしめてくれた秀一くんの温かさを、手放したくないと思ってしまいました。



 ※※※



「知ってたけど?」


「ええ!?」


 告白が罰ゲームだったことを秀一くんに話したら素晴らしく軽い返事が返ってきてしまった。嫌われるのを覚悟で話したのに……。


「ど、どどどどッ」


「まさやんが教えてくれた」


「いいいいっ」


「雪が告白する前から知ってたけど?」


 まさやんくーーんッ!?

 え!? だって、あれは女子トイレで言われたんですが! しかも式が終わってから言われたので、実質告白するまでの間は三十分もなかったはずなのに! どこで!? どうやって知ったの!?


「びっくりしたし、なんだそりゃと思ったんだけどさー」


 当たり前だ。

 罰ゲームで告白されるなんて、される側からすれば腹立たしいことでしかない。でも、だとすればどうして秀一くんは私の告白をOKしたのでしょうか。


「ラッキーって」


「へ?」


 ラ、ッキー……?


「あれ!? 俺がその前から雪のこと良いなーって思ってたこと知らなかった!?」


「えぇ!?」


 初耳ですけれど!?


「うわ、まさやんの奴それは言ってないのかよ! くぉぉおお!!」


「あの、えと、じゃあ、なつやすみに、あの」


「誘いまくったのは夏休みの間に雪が俺のこと好きになってくれないかなーって……、はい……」


 夏祭りの夜に手を掴まれた時も。

 プールで遊んだ時も。

 水分補給だからと間接キスをしてしまった時も。


 決して顔を紅くすることがなかった秀一くんが真っ赤になっていて。

 きっと。

 私も秀一くん以上に真っ赤になってしまっているだろうから。


「だから今日別れてくださいって言われて、夏休みの間に呆れられてたんだって焦って……ごめん……」


「ぁ、ぁの」


「でも大好きって言ってもらえたからもう平気! ていうか最高! 雪は最高! 俺の最高の彼女!! なんだこれ! なんだこれ!! 今なら俺世界を狙える気がする!!」


「~~ッ」


 サヨナラするはずだった。

 積み重ねた小さな罪にお別れを言うはずだった。


 なのに。


「雪はかぁわぁいぃぃぞぉぉおおおおお!!」


「あわわわわッ!?」


 こんなに幸せで良いのでしょうか。

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サヨナラ、小さな罪 @chauchau

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