第250話 ドミーはエンダにお願いする

 「我の前に姿を現せ!!!」


 あたしは絶叫に近い叫び声を上げて命じた。

 すると、周囲に人影が浮かんでいるのが見える。


 色とりどりの豪華な装飾、王にのみ許された服装を着た女性たちだ。

 全員、見覚えがある。

 ある時は書物で、ある時は肖像画で、ある時は過去を知る者からの伝聞で。


 「エルムス王よ、我にその権利があるかは知りませぬが、全力であなたをお止めします…それをカエナオも望むでしょう」


 ムドーソ国王2代目、チディメ。


 「あなたがエンダですか。聡明そうな顔をしている。一つ補足しておくが、我々は本物の魂ではない。その複製とでも言っておこうか。【守護の部屋】の一機構として機能するため、王が亡くなった後に複製される仕組みとなっている」


 ムドーソ王国3代目、ノーラ。


 「だが、その人格や記憶は本物だ」


 ムドーソ王国4代目、エルネスタ。


 王国を今まで受け継ぎ、守護してきた王たちが集っていた。

 死してなお民を守り、エルムスを止めようとしている。


 「父上、いや、ご先祖様、申し訳ありません」


 その王たちを前にして、あたしをひざまづいた。


 「あたしは愚かにも国を奪われ、失ってしまいました…」

 「泣くなエンダ」


 溢れそうになった涙を、父上が止める。


 「お前は王国に騒乱を招いた我よりも王の素質に満ちていた。それを発揮できなかったのは、我のせいだ。お前のせいではない」

 「父上…」

 「だから、今は王としての責務を果たせ。お前にならきっとできる」

 「はい!」


 そうだ、まだ終わっていない。



 

 民に平和と安寧をもたらすムドーソ王国の役目は、まだ続いているのだ。


 「それでは、新たな命を下す」


 未だ苦しんでいるエルムスを指さし、代々の王に命じた。


 「民に害を加えんとする不埒物を、【守護の部屋】から追放せよ!王たる資格なきものを、玉座から追い出せ!」

 「「「心得た!」」」


 王たちは手のひらから光を放ち、エルムスに照射する。

 みるみる暴虐な怪物の体は焼け、消えていった。


 「貴様らあああああああ…!」


 

 エルムスが絶叫し抵抗するが、抗しきれない。

 やがてみずから【守護の部屋】の玉座から離れ、空中へと飛び降りた。


 「これで…」

 「いや、まだだ!」


 あたしの声を父上がかき消す。

 エルムスはぼろぼろになりながらも、どこかへと向かっていた。

 【赤い津波】が停滞している方面である。


 「こうなれば!【赤い津波】を我自らが操作してくれん!」


 止める間もなく、エルムスの体は津波に飲み込まれた。

 しばらくすると、津波は揺れ始め、活動を再開する。


 いや、単に活動を再開したのではない。

 津波が形を変え、新たな存在になろうとしていた。


 すなわち、一つ目の巨人に。


 「我が理想郷は、誰にも滅ぼさせはせぬ…」


 エルムスは自ら粛清した怨念と一体化したのだ。

 


 ==========



 「助けに来たぜ!」

 「エルンシュタイン王!あたしよ!ライナよ!」

 「王よ、ミズアは、あなたさまを見捨てるつもりはありません!」


 その時、3名の人影が見えた。

 見知った顔だ。

 台座のようなものに立ち、こちらに近づいてくる。


 「うおりゃあああああ!」


 先頭に立つ男、ドミーには、古びたカギが握られていた。

 そのまま【青の防壁】をすりぬけ、たどり着く。


 「ドミー、参上!ってどわあああ!?」


 決めセリフを叫ぼうとしたが、後から来た2人に押し出された。


 「ごめん、ドミー!急には止まれなくて…」

 「申し訳ありません…」

 「ったく、最後の見せ場だってのに」

 「あなたたち、どうしてここが?」

 「話はあとですエルンシュタイン王。あの怪物はなんですか?あと、このこの方々は?」


 歴代の王たちはドミー達をじっと見つめているが、手出しはしない。

 どう扱うかはあたし次第、ということか。

 

 「…エルムス王の怨念だ。かいつまんで話す」

 

 王としての威厳を保ちながら、あたしは話し始めた。



 ==========



 「そういう、ことですか」


 エルンシュタイン王から事情は聞いた。

 とりあえず津波と同化した王をぶっ倒せば何とかなるらしい。

 

 「とりあえず、この部屋をエルムスにぶつけましょう」

 「ああ…あたしはもう【守護の部屋】の主ではない」

 

 エンダ王は疲れた表情を浮かべる。


 「鍵を行使しただろ?だから、あなたが【守護の部屋】の主だ。あたしには、何の力もない。元からその資格には乏しかったゆえ、未練はないがな」


 言葉こそ気弱だが、表情には力が戻っている。

 何らかの経験が彼女を成長させたのだろう。


 なら、俺のやるべきことは一つだ。


 「ならば、一度お返しする」

 「は?」

 「元より、あなたを牢獄から救い出すために欲しかっただけだ。あなたにとって、もうこの部屋は牢獄ではない」

 「ドミー…」

 「その代わり、1つお願いしたい」


 よろよろと歩行を始める赤い巨人を指さしながら言った。


 「俺たち3人であの巨人に突入する故、【守護の部屋】で援護してほしいのです」




 「今のあなたなら、【赤の裁き】も使えるはずだ」


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