第249話 エンダは命じ、ドミーは向かう
「小癪な!人一人殺せぬ無能の分際で!!!」
エルムスはあたしに向けて手をかざした。
おそらく、一瞬で握りつぶされる。
(ごめんね、ドロテー。あたしが死んだら、あなたは好きにしていいから…)
自分の運命は受け入れつつ、せめてもの抵抗としてエルムスを睨みつける。
どうせ死ぬのなら、最後までかっこつけたい。
「はじけ飛ぶがよい!」
エルムスは咆哮し、強力な力を行使しようとした。
だが、できない。
「…なん、だ?体が…動かぬ」
何が起こっているのかあたしにも分からなかった。
それまで何物にも止められないように見えた暴君が動きを止め、苦しみ、胸を抑えている。
あたしにかざそうとした手も震え、力なく垂れ下がった。
状況が分からず戸惑っていると、誰かが声をかけてくる。
ー命じるのだ、エンダよ。
遠い昔に分かれた、自分にとって大きな存在。
王の厳しさを教えるために、あたしにトラウマを植え付けた人。
ー備えをしていたのはエルムスだけではない。この【守護の部屋】には最後の機能が備わっている。お前がそれを行使するのだ。
でも、記憶よりもずっと優しい声をしていた。
ーお前に重荷を背負わせてすまなかった…我は、不出来な親であった。
(いまさら、そんなこと言わないでよ)
言いたいことは山ほどあった。
でも、今はよそう。
どうやら、あたしにも出来ることがあるらしい。
「王の名をもって命ずる!」
からからの声を張り上げて、命令を下した。
自分の意志で命令するのは、人生で初めてかもしれない
「我の前に姿を現せ!!!」
==========
「止まった…?」
【赤い津波】に変化が見られた。
みるみる内に速度が停滞し、完全動きを止めてしまう。
どれだけ力を行使しても止められなかったのが嘘のようだ。
「ドミーさま、これはどういうことでしょうか」
「ええと…私たちの、勝利?」
「分からない。それより無事か?」
「ええ。なんとか」
「ミズアも同じく」
ライナとミズアから相談を受けるが、俺にも分からない。
「すみません。じっと見つめられても、ロザリーからは何も教えられてません」
「ナビも良く知らないかも…」
レイーゼとナビも自信なさげだ。
迷っていると、アマーリエがはしゃぎながらこちらにやってくる。
「さすがはドミー殿下!我らも知らないスキルで敵を食い止めたのですね。建国神話に書き留めておかねばー」
「神格化は後にしろアマーリエ。それよりどう思う?」
「おっとこれは失礼。とにかくこの機に乗じてこちらから動きましょう。敵がいつ行動を再開するか分かりませぬ」
「そうだな…」
この機会を逃さず攻撃を仕掛けたいところだが、さきほど全ての攻撃を跳ね返した防御力が衰えているとは限らない。
ここはひとまず住民の避難を優先ー
「ドミー殿下!」
その時、風のごとき早さで誰かがやってくるのが見えた。
ムドーソ城に派遣していたレーナだ。
「おお!ちょうどお前に会いたいところだった。ムドーソ城の避難はどうなってる?」
「筋肉門番アメリアが頑張っとるで、ほら!」
レーナが指さした方を見ると、確かにムドーソ城門から大勢の一般市民が脱出を開始していた。
これならー、
「そんなことより報告したいことがあるんや!ゼルマがムドーソ上空で変なものを見つけたって!」
「変なモノ?」
「ほら!」
今度は上空を指さす。
豆粒のような小ささだったが、確かに何かが浮かんでいた。
あれは…守護の部屋?
「実はエルンシュタイン王と【守護の部屋】が行方をくらましてな。それと同時にあの津波が出たらしいねん」
「貴重な情報だ。俺の方で対処するとゼルマに伝えろ!子供を産んだばかりなのに無茶はするなとな。今後はアメリアと共に避難を手伝うように」
「了解!」
レーナはいつも通り一瞬で姿を消した。
「行くっきゃないわね」
ライナが【ルビーの杖】を構え直した。
「十中八九あれの仕業でしょう」
「…ということは、エルンシュタイン王が?」
「多分、違うと思う。あの人は絶望しているだけで、こんな非道なことは決してしないわ。関係しているとしても、恐らく操られているだけ」
ミズアも、【竜槍の杖】を天空に突きつける。
「ミズアも同意見です。行きましょう、【守護の部屋】へ」
どうやら、いつも通りのメンバーでケリをつける必要がありそうだ。
問題はあそこまでどうやって行くかだ。
ミズアに連れて行ってもらうこともできるが、2人を運ぶと速度が極端に遅くなる。
「それについては心配ご無用ですぞ。私の盾を使いなされ。【ウォール・アドバンス】!」
俺の思考を呼んだのか、アマーリエが新たな盾を出現させる。
盾というより、台座だ。
ちょうど人3人が乗れるほどの大きさで、試験飛行のようにゆらゆらと動かして見せる。
「上空まで飛べるか?」
「もちろん。元はあなた様の力ですし」
「…お前にはいつも世話になる。ゼルマともども、その恩に報いないとな」
「大したものは必要ありません。ただ私の子の名付け親になってくだされば」
「アドヴィナだ」
「は?」
「ずっと前から考えていたんだ。アドヴィナ。『高貴な女性の友達』という意味だ。どうだ?」
「…素晴らしい。ゼルマも、きっと喜びます」
「ありがとう。お前とも、ずっと友人でいたい。平和な時代を共に楽しもう」
「喜んで!」
俺、ライナ、ミズアが盾の上に乗った。
「それでは行ってくる。ナビ、レイーゼは援護を頼むぞ。【ドミー軍】は2人の指示に従うように」
「「はっ!」」
盾が浮遊を始め、【守護の部屋】へと向かっていく。
「行くよドミー!」
「行きましょうドミーさま!」
「ああ!【ドミー団】、出動する!」
「「「全ては世界を救うために!」」」
どんな障害が立ちふさがっても必ず敵を打ち破り、レムーハ大陸に安寧をもたらす。
それが、コンチとの約束だ。
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