第247話 【ドミー軍】、立ち向かう

赤い津波は、ムドーソ城へとみるみる迫っていく。

 すでに近郊の数人は犠牲になっただろう。

 留守に残した者に避難を誘導させるようレーナに命じたが、とても間に合わない早さだ。


 「【ドミー軍】、前進!」


 ならば、全力で止めるまで。

 号令と共に、数百人の戦士たちが、赤い津波から国土を守るため横列で展開した。


 「日頃の訓練の成果を生かせ!殿下に【強化】されたお前たちなら難しくない!」


 アマーリエの号令と共に、戦士たちは準備を整える。


 横列の中央で兵士の先頭に立ち、ライナとミズアを横に従えた。

 臨時で加わったレイーゼ、ナビも側に置く。


 「ライナ!ミズア!どう見る?」

 「はっきり言って分からないわね。どう見ても普通の津波じゃない。でも、やるしかないでしょ!」

 「ムドーソの民を守るため、全力を尽くします!」

 「その意気だ!頼りにしているぞ。レイーゼ、ナビも新参だが働いてもらう」

 「…まだロザリーの墓も建てられていません。必ず食い止めます。私の土属性魔法をもって」

 「ドミーさんの命令なら喜んで!」

 「あ、でもナビはスキルを行使できるのか?」

 「もちろん!光魔法を使えます」


 ナビは指の先から淡い光を放った。

 コンチが創造した天使なら、ある程度腕は立つだろう。


 あとは、信じるだけ。


 その時轟音が響き、【赤い津波】がすぐそこまで迫ってきた。


 「さあ、来たぞ!まずは一斉攻撃からだ!効果がなければ【ホーリー】を放つ!近接系スキルの者は先行して攻撃を開始!」


 すべてを飲み込む災厄を指さし、最後の戦いを開始した。


 「我らの手でムドーソを守るのだ!!!」



 ==========



 「ふはははははははは!ここまで来れば奴らも探知できぬであろう!【赤い津波】よ、全て飲み込んでしまえええええ!」


 誰の目も届かない天空。

 【守護の部屋】をぐんぐん上昇させながら、エルムスはせせら笑った。

 豆粒のように小さくなったが、ムドーソの状況は辛うじて分かる。

 ぐんぐんと首都に迫る【赤い津波】に対し、近接系スキルを保有する者が攻撃を始めているようだ。


 先頭には、【竜槍】を携えた白い髪の少女、ミズアがいる。


 だが、まるで効果がない。

 スキルを利用した、岩や山をも砕くAランクレベルの強烈な攻撃をもってしても、こゆるぎもしなかった。


 それどころか、生物のように波の一部が盛り上がりを見せ、使い手を飲み込もうとする。

 ミズアの支援がなければ、すで何人かが犠牲となっていただろう。


 気付いてはいたが、どうみても普通の津波ではない。


 「無駄だ無駄だ!その津波は粛清した数百人の家臣の怨念から生まれしもの!そう簡単に破れるものではない!」

 「おやめくださいエルムス王!元はと言えばあなたさまが慈しみ、保護した領民の子孫ではありませんか…」

 「くだらぬことを!我は領民を保護するために王になったのではない!」


 あたしの情けない懇願も、エルムスには届かなかった。

 

 「我は自らの力を示し、歯向かうものを殺し、弱者もひれ伏せ従わせるために王となった!王国が我の望む結果をもたらさないのであれば、壊してしまえばいい!ムドーソ全土を焦土にした事実をもって、レムーハの他の土地を新たなムドーソ王国とする!」

 「そんな…」

 「そもそも、貴様が今のような惨めな身分に落ちたのも、歯向かうものを抹殺しなかったからだ!臆病者の王など、領民にとって害でしかないわ!」 

 「…」


 心当たりは、存在した。

 王国の権威が失墜する【カクレンの乱】で、あたしは【守護の部屋】を動かせなかった。

 もし動かせていたら、叛乱そのものが起きなかったかもしれない。


 あたしが人を殺すことが出来なかったから、ムドーソ王国は滅びたんだ。


 「みんな、逃げて…」


 あたしは、はるか下にいる【ドミー軍】に向けて呼びかけた。


 抗えばみんな殺される。

 逃げるしかない。

 逃げれば、助かるんだ。


 でも、誰も逃げようとはしなかった。


 近接系スキルの者たちを下がらせ、魔法系スキル使いの一斉攻撃を開始する。

 特に目立つのは、3つの魔法。

 おそらくライナが放つ【フレイム】であろう蒼い炎、津波を食い止めるための巨大な土壁、限られた者しか使えないとされる光を利用した魔法。


 【赤い津波】を食い止め、押しとどめようとするが、すぐに弾き飛ばされる。


 効果がないと悟ったのか、魔法系スキルの攻撃も止んだ。


 そしてー、




 まばゆい一筋の光線が放たれる。

 1人では到底発現しえないほど強力な魔法だ。

 今まで見たことが無い。


 全員の体から光が発せられているのが見える。

 力を合わせているのだろうか。




 だが、最終的にそれも破られた。

 全ての障害を排除し、【赤い津波】は【ドミー軍】に迫る。

 


 ==========



 【ホーリー】も破られてしまった。

 赤い津波はやや勢いを減じながらも、すでに間近まで来ていた。


 「ここまでか…みんな撤退しろ!俺が逃げる時間を稼ぐ!」

 「何言ってるのドミー!【フレイム】!」


 再び蒼い炎を放ち、ライナは叫んだ。


 「あなたを置いて逃げられるわけないでしょ!」

 「しかし…」

 「ライナの言う通りです!【刺突】!」


 何度目からの突撃を繰り返し、泥にまみれながらミズアがほほ笑んだ。


 「あなたとは、生死を超えた交わりを結びました!最後まで付いていきます!」

 「お前たち…」

 「ではこういたしましょう!」

 

 水圧で押しつぶされそうな盾を必死に操り、アマーリエも同調する。


 「最後まで民を守らんとする命知らずだけで、最後の攻撃を敢行するのです!」

 「賛成!ドミーさんの旅路は最後まで見守ります!」

 「やれやれ…あなたに特別な忠誠心はありませんが、ここで逃げればロザリーに笑われますからね!【サンドストーム】!」


 みんな想いは違えど、最後まで留まろうとしていた。

 【ドミー軍】の面々も、誰一人逃げようとしない。

 

 「お前たち…仕方ない!お前たちの馬鹿に俺も最後まで付き合うぞ!」


 水しぶきが顔に掛かる段階になっても、俺たちは抵抗を続けた。

 

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