第244話  エルンシュタインを訪れし人は

 「ライナ!」

 「分かってる!」


 俺とライナは手を繋いだ。

 

 俺のごつごつとした大きな手と、ライナの小さくて柔らかい手。

 2つはしっかりと交わる。


 視線の先には、こちらへと徐々に迫る【アンフィスバエナ】がいた。

 不気味な羽音を鳴らしながらこちらへと向かっている。


 強大だが、たった1人だ。


 「ドミー…」

 「どうした?」

 「私たち色々あったけど、良いコンビだったね」

 

 ライナは少し体を震わせながらもほほ笑む。


 「ああ。だが1つ間違えていることがあるぞ」

 「…?」

 「良いコンビだった、じゃない。これからもずっと良いコンビだ」


 彼女の美しい金髪をそっとなでた。


 「だから、こいつをさっさと倒して、ロザリーの目を覚まさせよう。俺たちならできる」

 「…ふふふ。そうだね。私とドミー、いや、私たちの物語はこれからなんだ」

 「その通りだ。さあ、やるぞ」


 俺とライナは結んだ両手を高々と掲げ、【ドミー軍】の面々に呼びかけた。


 「「みんなで手を取り合おう!力を合わせて、あいつらをやっつけるんだ!」」


 「ドミーさま!ミズアと、いつまでも一緒にいてください!」

 ミズアがー、

 「ドミー殿下、この戦いが終わったら、私とゼルマの子の名前を考えていただきますぞ!」

 アマーリエがー 「仕方ありませんね。少しだけ力をあげます!」

 レイーゼがー、

 「「「ドミー殿下のため!」」」

 【ドミー軍】の面々がー、


 皆で手を取り合う。

 俺とライナの力をみんなで分かちあい、それぞれのスキルが【強化】されていく。


 「「「そして、この世界を救うために!」」」


 全員で手をかざすと、巨大な光が1つの光球となって、輝きを増していった。

 限界まで大きくなった時、俺たちは誰から教えられるでもなく、そのスキルの名を呼ぶ。


 「「「【ホーリー】!!!」」」


 そして、【アンフィスバエナ】に向けて放った。 

 【アンフィスバエナ】は名も知らぬ黒き闇の波動を産み、負けじと攻撃してくる。


 


 光と闇の波動は、【ドミー軍】と【アンフィスバエナ】の丁度中間地点でぶつかり合った。

 すさまじい衝撃と光が生じ、森の木々をなぎ倒しながら、拮抗を続ける。


 だが、やがてじりじりと光球が押されていった。

 このままでは【ドミー軍】が全滅してしまう。




 ー仕方ないなぁ。少しだけ力を貸すよ。


 誰かの声が聞こえた。

 俺にスキルを授けた、はた迷惑な天使の声。


 再び光球は勢いを増し、【アンフィスバエナ】の方へと向かっていく。




 そしてー、




 「ギャアアアアアッ!」


 ロザリーの怨念が生み出した巨大な蛾の肉体を包み込み、一瞬で焼いた。




 「やったぞ!これで…」 

 俺は思わず、喜びの声をあげるがー、




 「おわっ!?」

 「ドミー!?しっかりして!」


 飛んできた木片の一部が頭に当たり、意識を失った。



 ==========



 「しっかりしろよ。君はこんな所で寝ている場合じゃない」


 目が覚めると、見覚えのある草原広がっている。

 かたわらに、コンチがいた。


 「えー…そうだ!ロザリーは…」

 「倒れたよ。君とライナの力でね」

 「そうか。なら早く【絶頂】させないと。ロザリーもそれには抗えないはずだ」

 「やれやれ、君は甘い人間なんだから」


 コンチは笑顔を浮かべているが、どこか寂しげだ。

 

 「ドミーさま。実は…」


 傍らからナビが現れ、力ない声でささやく。


 「コンチさまは、あなたにお別れを告げに来たのです」

 「別れ?」

 「ああ。寿命が来たというやつだ。さっきも力を使ったし」


 コンチの体が光り、みるみる消えていく。

 思わず手を差し伸べたが、彼の体を貫通し、何もつかめなかった。


 「なんだよ。こんなところで。落ち着いたら、お前に言いたいことややりたいことがいっぱいあるんだ!」

 「例えば?」

 「…頬を一度ぐらいつねってみるとか」

 「それなら、どこかで達成しているはずだよ。心配はいらないさ…」


 コンチはどんどん薄れ、目で視認するのも困難になっていった。


 「さあ、これからは君の時代だ。君がこのレムーハに子孫を授け、世界を救うんだよ。まだ1つ問題が残っているけど、きっと彼女なら…」

 「ナビはどうする?」

 「君に託す…」

 

 もう、消える寸前だ。


 「コンチ」

 「なんだい?」


 だから、最後に伝えたかった言葉をつぶやいた。


 「また、会おう」

 「ああ」


 人知れず世界を支え続けた天使は、最後に満面の笑みを浮かべるのだった。


 

 ==========



 「どうしたの?ランケ」


 眠っているドロテーを撫でていると、最後の家臣の1人が慌ただしくやってきた。


 「2つお耳に入れたいことがあります。1つ目。北の森の方で、巨大な光と炎が観測されました」

 「それはドミー達が戦っているからであろう。彼らなら、なんとかしてくれるはずだ」

 「はっ。実は問題は2つ目でして…」

 「なんだ?」

 「ムドーソ城内にて奇怪な人物が現れたと…」


 その時、あたしが幽閉されている【鏡の間】の扉が、勢いよくあけ放たれる。

 監視していたはずの【ドミー軍】の護衛2人が意識を失い、倒れこんでいたのが見えた。


 「あなたは…いや、あなたさまは」


 ドロテーが目を覚まし、怯えた酔う表情を浮かべる。

 よく見ると、あたしにも見覚えがあった。


 「不甲斐なき子孫よ」


 一代にしてムドーソ王国を築き上げた偉大なる傑物にして暴虐なる王。




 「どうやら、やり直しの時が来たようだな」


 ムドーソ・フォン・エルムスその人だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る