第243話 ドミー、レイーゼと同盟する

 ロザリーが中に入ると、繭は激しく振動した。

 表面に赤い筋がいくつも浮かび、膨張していく。


 「ライナ!ミズア!一旦引くぞ!」

 「あれは【錬成の繭】?でも何と融合するつもり?」

 「恐らく【血吸いの戟】に封じられた魔神だ。どんな姿になるか予想もつかない」

 「ドミーさま!ライナ!しっかりつかまってください!」


 ミズアの手に抱かれ、ひとまずその場から急速後退。


 「ドミー殿!無事でしたか!」

 「さすが大賞!うちは信じてたで!」


 【ドミー軍】数十人と共に、アマーリエとレーナの姿が見えた。

 互いの無事を喜びたいところだが、その時間はない。


 「アマーリエ!【ウォール・アドバンス】を展開しながら【ドミー軍】を脱出させろ!レーナはすぐにムドーソに戻り、モンスターに備えるよう警告してくれ!」

 「「仰せのままに!」」


 レーナが一瞬で姿を消し、アマーリエが大量の盾を展開する。


 「俺たちがしんがりを務める!全軍後退!」

 「「「はっ!」」」


 全員あわただしく移動をはじめ、森から離れていく。

 だが、1人だけ動かない者がいた。

 生気のない顔を浮かべ、地面にうなだれている。

 

 ロザリーの元仲間、【魔法士】のレイーゼだ。

 いったんライナとミズアの元を離れ、駆け寄った。


 「何をしてる!」

 「…置いていってください」

 「そういうわけにはいかないな」

 「【錬成の繭】に取り込まれたのでしょ?もう助ける術はありません。ロザリーさんは、私を置いて行ってしまったんです…」

 「馬鹿者!」


 思わず叱咤し、彼女の腕を強引につかんだ。


 「きゃっ!?」

 「刺激が強くて悪いな!だが、元下っ端として一つだけ言っておく」


 後方から轟音が響く。

 時間がない。


 「ロザリーの味方となれるのは、もうあなたしかいない。見捨てれば、彼女は永遠に一人ぼっちになってしまう。それでもいいのか?」

 「…っ!」


 光を残す片目に迷いの感情が浮かんだ。


 「私、は」


 しばらく視線は宙を泳いでいたが、やがて目の焦点がしっかりとしていき、俺をじっと見つめる。


 「ロザリーを、助けたい」

 「その意気だ」

 「あっ…」


 耳をきゅっと触り、レイーゼを軽く【絶頂】させる。


 「力を与えた。別に返さなくていいし、俺に従う必要もない。臨時の同盟だ」

 「ドミー…あなたは」

 「ドミーさま!何かが来ます!」

 「話しは後だ。行くぞ」


 ライナとミズアの元に戻る。

 迷いながらも、レイーゼが後ろから付いてきた。


 「ライナ。ここに火を放て。少しぐらい時間は稼げるだろう」

 「うん!【フレイム】!」


 蒼い炎が森全体を包み込み、あっというまに木々を溶かしていく。


 「行くぞ!」


 ライナ、ミズア、レイーゼを連れ、後方を警戒しながら走った。

 

 

 ========== 



 気が付くと、自分がまったく別の存在になっているのを感じた。

 

 鱗粉に覆われた胴体、紫の羽、口から伸びた細長い管。

 まるで蝶のようだ。


 (いえ…この毒々しさじゃ蝶とは呼ばれないわね。まるで蛾だわ」


 人間十数人分の大きさがある羽をはためかせ、ゆっくりと宙を舞う。

 羽を動かすたびに鱗粉が降り注ぎ、みるみる木々を枯らせていった。

 (待っていなさい、ドミー。この管であなたの全てを取り込んであげる。そして、この退屈でしかたない世界を滅ぼすのよ)


 ゆくてを蒼い炎が阻んでいたので、煙と熱が気にならない高度まで飛翔する。




 逃げ惑う人間の集団を見つけ、あたしはほくそ笑んだ。



 ========== 



 「あれが、ロザリーなの?」

 「どうやらそうらしい」

 「すさまじい禍々しさです…」

 「レイーゼ、あれについて何か情報はないのか?」

 「私は何も知りません。ただ、【血吸いの戟】には【アンフィスバエナ】という魔人が封じられていると聞いたことがあります」


 森から脱出し、集結する【ドミー軍】のもとに巨大なモンスターが接近していた。

 

 蝶というにはあまりに巨大で、禍々しい存在。


 「気を付けて!何か攻撃してくるよ!」


 ライナの警告。

 【アンフィスバエナ】の羽に刻まれた【魔法陣】が明滅しはじめる。

 黒い球体が【アンフィスバエナ】の左右に生まれ、徐々に大きくなっていくのが見えた。


 そして、放たれる。


 「伏せてください!【ウォール・アドバンス】!」


 そばにいたアマーリエが巨大な1つの盾を出現させ、防ごうとする。

 だが、あっさりと盾は砕け散った。


 「ぐ…!」


 なんとか軌道をそらすことには成功したものの、後方の山脈に命中。

 轟音をあげて山に大きな穴が穿たれた後大爆発が起きた。

 非常に強力である。

 並みの【強化】では歯が立たない。

 

 どうすればいい・・?


 「ドミー!みんなで力を合わせるの!」


 その時、ライナが俺に声をかけた。

 よく見ると右手の先が光り輝いている。


 「私も、あなたの力を一部得ている」




 「だから、2人でみんなを【強化】しましょう!」


 

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