第242話 ロザリー、包まれる

 ドミーの気配を感じた先には、彼と初めて出会った森が広がっていた。

 彼に初めて【支配】され、協力してゴブリンを倒した場所。


 中心部が、黒いオーラで覆われている。

 

 「あのオーラは非常に堅固です。何度か攻撃してみましたが破れず、簡単には近付けません」


 様子を見にいかせたアマーリエから報告があった。


 「なら、破壊すればいいわね。そうでしょ?」


 傍らにいるミズアの方に目をやると、【竜槍】を構えながら笑みを浮かべている。


 「そうですね。そうやってミズアたちは困難を乗り越えてきました。ドミーさまと共に」

 「ええ!早くドミーを助けて、私たちの未来を創り出しましょう」


 【ルビーの杖】に力を宿し、黒いオーラに照準を定める。

 それを見た周辺の【ドミー軍】の【魔法系】スキルの使い手が、私に併せて各々の武器を構えた。


 「みんな、行くわよ!」

 「「「はっ!」」」


 一人一人の力じゃ恐らくあのオーラを破れない。

 でもー、




 「【フレイム】!!!」

 「【タイフーン】!!!」

 「【アースクエイク】!!!」

 「【ダイヤモンドダスト】!!!」


 皆の力を合わせれば!

 

 「【刺突】!!!」

 「【虎極拳】!!!」

 「【ハイパーショック】!!!」


 ミズア率いる【メクレンベルクの槍】の面々も突撃し、オーラに強烈な衝撃を与えていく。


 「ライナ!」

 「ええ!」


 何者も寄せ付けないように見えた黒いオーラに、鋭いひびが入り始めた。

 ひびはみるみる広がり、全体が崩落し始める。

 一度崩れれば、後はあっという間。




 轟音をあげて、黒いオーラは消滅した。


 「突撃!」


 すかさず、【ドミー軍】全員で森の中に突入していく。

 先頭は私だ。

 ドミーの気配はどんどん強まっていく。


 (死ぬんじゃないわよ、ドミー。この世界を救えるのも、私の旅を終わらせられるのも、あんたしかいないんだから!)

 

 走り続けると、眼鏡を掛けた隻眼の【魔法士】の姿が見えた。

 道の真ん中で杖を構え、周囲を風で巻き上げている。

 杖に見覚えがあった。


 レムーハ大陸の僻地にある【封印の谷】に眠っているという【祝祷の杖】。

 Aランク相当に値する強力な装備で、同じくAランクの【魔法士】にしか扱えない。


 強力な使い手には違いなかったが、その眼に光はなかった。


 「あなたは?」

 「…レイーゼと言います。あなたの探していている人物をさらった、ロザリーの仲間です。いや、仲間でした」


 からん、とその手から【祝祷の杖】がこぼれおちる。


 「お願いします」


 1つだけ残ったレイーゼの左眼から、一筋の涙が流れた。




 「世界を滅ぼそうとするあの人を、止めてください…!」



 ========== 



 「やるじゃない。少し見ない間に強くなったわね」

 

 ロザリーは強かった。

 かなり手加減されているが、俺の攻撃をまったく寄せ付けない。

 力では男性に劣るとはいえ、Aランクの伝説の戦士の実力は伊達ではなかった。

 

 「ああ…そうだな。だがなぜ俺を殺そうとしない?」


 斬撃を受け体のあちこちから出血していたが、全て軽傷である。

 ここにライナたちが迫っているのは分かっているはずだ。


 「そうねえ」


 【血吸いの戟】と呼んだ武器を突きつけ、ロザリーは微笑んだ。


 「あなたのこと、もっと鍛えてみたかったなって」

 「鍛える?」

 「ええ。本当はもっとあなたを強くしてから融合したかった。一度にあたしのものになれば、あなたを強くする機会は失われる。もっともっともっともっともっともっともっともっともっと、あなたを鍛錬したかったわぁ」


 戟の先端に突いた血を、ぺろりと舐めとる。


 「それに、この戟に封じていた魔神が血を欲していたのよ。この戟は絶大な力をもたらす代わりに、生ける者の血を常に欲するようになる。血を与えなければ、いずれ精神を蝕まれて廃人になる仕組み」

 「…まさか」

 「勘違いしないでよ?この戟に飲まれたからあたしが残酷になったわけじゃないわ。あたしは元々こういう性格なのよ」


 今までは違う殺気。

 腕の一本は確実に切り落とすつもりだろう。


 「…!」


 やられる。


 「【操槍】!」

 「【フレイム】!」


 その時、懐かしい声とともに、ロザリーに炎と槍が襲い掛かった。

 


 ========== 



 一瞬で膨大な破壊力を生み出す、蒼い炎。

 ロザリーの姿が見なくなる。


 そしてー、


 「ドミー!」

 「ドミーさま!」


 ライナとミズアが飛び込んできた。


 「大丈夫…って大変、怪我してる!」

 「ドミーさま、早く手当てを!」

 「問題ない、軽傷だ」

 「良かった。私、ドミーになにかあればどうしようかと…」

 「ドミーさま、ミズアとライナを置いていかないでください…」

 「悪かったな。ありがとう、俺を助けに来てくれて」


 涙ぐむ2人を固く抱きしめる。

 が、不気味な振動と金切り声が響き俺たちはとっさに身構えた。


 


 「遊んであげようと思ったけど、まあいいわ」


 少し傷ついたロザリーが、【血吸いの戟】を携え、【錬成の繭】の中へと入っていく。


 「一足先に、あたしはこの世界からさよならするわ。後で迎えに行くから」


 止める間もなく、ロザリーの全身が繭に包まれた。

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