第233話 ロザリー、活動を始める
「じゃあ、【守護の部屋】を解除する鍵を探さないといけないのね」
「ああ。大貴族は確かに存在すると証言していた。場所までは流石に知らないようだが」
真夜中。
1日の政務が終わり、俺は【ディアナの間】に戻った。すでにライナとミズアが待っていて、3人で会ったことを報告し合う。
「ライナは、何か情報をつかんでいるか?」
「私は何も…ミズアは?」
「現在、メクレンベルク一族の古伝を探っています。何か情報があれば報告いたします」
ミズアは淡々と報告しているが、その表情には迷いが見られる。
大体の想像は付いた。
「ミズア。やはり、ムドーソ王国の滅亡に直接加担するのは気が引けるか?」
「…いえ、そのようなことは」
「別に強制はしない。臣下ではなく俺の妻として、自分の正直な気持ちを言ってくれ」
「叶いませんね、ドミーさまには…」
ミズアは深々と頭を下げる。
「民を救えないムドーソが滅びるのは致し方ないこと。ですが、ですがエルンシュタイン王には寛大な処置をお願いします。あの方は王国の負の側面を押し付けられ…王になった時はどうしようもなかったのです」
少しだけ、身を震わせていた。
椅子から立ち上がり、彼女の髪をそっと撫でる。
「心配するな、ミズア。エルンシュタイン王を【支配】しても残酷なことは決してしない。出来るだけ、彼女の処遇を考慮する」
「ありがとうございます…!」
「お前もエルンシュタインに会いに行くといい。顔馴染みなのだろ」
「…何度か掛け合いましたが、会ってはくれませんでした。気に病んでいるのでしょう」
「【馬車の乱】のことを、か」
メクレンベルク一族が粛清された【馬車の乱】の時、エルンシュタイン王は【守護の部屋】で討伐に参加したと聞いている。
実際は前王エルネスタが主導したのだろうが、罪悪感を感じても無理はないか。
「お前に恨みの感情がないと伝えれば、王も心を開くだろう。だが…」
この際、言っておくべきことを言っておくことにする。ミズアを意思に反する戦いに投じたくない。
「【道化】のドロテーや秘書官のランケは抵抗の意思を捨ててはいない。王のそばにいながら、何やら企んでいるようだ」
今日の会見の場には姿を見せなかったが、2人は王の近くから離れようとしない姿が目撃されている。
特にドロテーは、俺のスキルの正体に薄々気づいてるためか、決してこちらに近づこうとはしない。
王の身柄はもちろん、【守護の間】の鍵もやすやす渡そうとはしないだろう。
エルンシュタイン王がある程度の幽閉で済んでいるのも、大陸の最高戦力であるAランク戦士ドロテーが不服従の意を示したからだ。
「覚悟は、できております」
ミズアは立ち上がり、胸に右手を当てた。
「彼らも命がけで立ち向かってくるでしょう。場合によっては、ミズアが刺し違えても討ち果たしー」
「あなたが死んじゃダメよ、ミズア」
ぽよん。
ミズアの背後から小さな手が伸び、彼女の豊満な双丘に触れる。
ライナだ。
ぐへへ、と言わんばかりの表情を浮かべている。
「ひゃっ!?」
「最悪無力化するだけでいい。ここまできて無理は禁物よ」
「わ、分かってます…!この命はドミーさまのもの。ドミーさまの赤子を産むまでは…ひあああん!」
耳に息を吹きかけられ、ミズアはがくりと脱力する。
「そう!ここまで来たんだから無理は禁物…きゃああああ!?」
後ろに寄りかかってきたミズアに不意を突かれ、ライナは【ディアナの間】の床に転んだ。
「いたたたた」
「やりすぎだぞ、ライナ」
「ごめんごめん。というわけで、【道化】に立ち向かう時は私も…」
「ライナ」
「え?」
ライナに背中を預けて脱力していたミズアの瞳に、火が灯る。
「ミズアは…怒りました!」
「ええ!?」
「いつまでもやられっぱなしだと思ったら大間違いです!」
「あ!ちょっと、ごめん!ごめんってばぁ!くひひひひひ…あはははは!」
弱点である腋をくすぐられ、ライナはたまらず声をあげる。
控えめな性格のミズアだが、一度力を出せば、非力なライナを一瞬で抑えられる。
顔を真っ赤にして身をよじるライナを、執拗にくすぐった。
「あ、もう、だめ〜〜〜〜〜!」
遂に陥落し、今度はライナが脱力した。
「参ったか、です!」
「ま、参りました…がくっ」
「…やれやれ」
茶番劇が展開されたわけだが、ライナの言うことにも一理ある。
命を捨てて立ち向かわんとする者に真正面から付き合う必要はない。
受け流した後、手で触れればそれで終わる。
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「さて、そろそろこちらから動きますか」
ライナとミズアとかいう羽虫を一瞬で殺し、ドミーを拉致するのは難しくない。
でも、すでに数千人もいる【ドミー軍】全体に追跡されるだろう。
皆殺しにするのは骨が折れるし、妨害されると儀式が執行できない。
だから、誘き出す必要がある。
ドミー自らが出てくるであろう、絶好のエサをちらつかせて。
そして、絶好のタイミングでものにする。
「地下に【守護の部屋】の鍵が封印されてるなんて、どうせバレるしね…」
隠れ家の地下の扉を開け、あたしは蠢動を始める。
「早くあたしのものになりなさいよ、ドミー」
仲間の血すら吸った【血吸いの戟】を携えて。
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